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新幹線で片道四時間。友人の結婚式からの帰り道、駅前から直線に伸びる商店街はすでにシャッターが下りている。その代わりに商店街の裏通りにある飲み屋街は、夜になるとにわかに光を放ち、活発に動きはじめる。酔い客の姿がそこかしこに溢れていた。
しばらく道なりに歩く。断続的に車のヘッドライトが目に入る。ひとつ、またひとつ、灯りが過ぎ去るたびに遠い日の記憶が脳裏に浮かんでは消えた。
学生時代、バイト先で知り合ったひとつ上の先輩とつき合った。ノリがよくて調子のいい男だった。
炭酸の泡のように彼と過ごしたあのころがシュワシュワと音を立てながら浮かんでは弾ける。やがて泡の中の私は就職した。夢とか希望とか理想とか目に映るものはすべて眩しかったあのころ。未来は色彩に溢れていたのに。働きはじめたところで、すべての泡は弾けて水と化した。
住宅街に入る脇道に折れると道幅は狭まり、車一台が通るくらいの幅になる。街灯はまばらで、灯のない民家との境に闇が落ちる。午後十時を回り、路地に人の姿はない。繁華街で感じた明るさが、そう遠くないこの場所にはまるで存在せず、別世界を創り出していた。
ふとこの付近で帰宅途中の女性が襲われたことを思い出す。幸い女性は灯のついた民家に逃げ込み、事なきを得たらしい。ローカルニュースで知った話だ。
大丈夫よね。慣れた道だから。心の中でつぶやきながら足早にアパートへと加速する。
ようやく見慣れた二階建てアパートが路地の先に覗きホッとする。
ワンルームで隣の人の声もよく聞こえる古いアパート。それでも自分の部屋がやっぱり落ち着く。ここまで来るともう帰ったようなもの。抱えていた緊張が一気に解ける。
アパートの手前に神社がある。といってもすごく小さい。神社なのかさえよくわからない。背の低い鳥居があり、その数メートル先に小さな社があるのを見た程度の記憶しかない。たしか社の前に賽銭箱が置かれ、片隅におみくじ自動発売機があったはず。
そんなことを思い出しながら前を通り過ぎるとき、むくむくと好奇心が頭をもたげた。自然と足が鳥居に向いた。
未来がこの先どうなるのか案外こういう人気のない神社のほうが導き出してくれるのかも。淡い期待が胸の内に膨らむ。
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