頼りないね。桂君。

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 背の高い人がジャンプしたら届きそうな鳥居をくぐる。すぐ近くだというのに初めて足を踏み入れた神聖な場所。  おみくじの運勢に頼るなんて他力本願もいいところだ。だから当たらなくてもいい。でも、いい運勢なら当たってほしい。どっちつかずの思考がこれまでの自分の生き方そのものに感じられて笑ってしまう。  友人の幸せそうな顔が瞼の裏に焼きつき、彼女の言葉が胸に刺さったままだった。 「ありがとう。つぎは裕美の番だからね。彼氏ができたらぜったい教えてよ。いい知らせを待ってるから」  私の番なんてあるのだろうか? 私がこれから向かう先にだれか待っているのだろうか? 「山本裕美さん。二次会に行こうよ」  披露宴が終わり、ざわつく会場で帰り支度をしているとき、男性から二次会に誘われた。新郎の友人で、披露宴の最中、ドリンク片手に手当たり次第にテーブルを回っては女の子に声をかけていた。  たいして言葉も交わしてないのにその彼はしっかり私の名前をインプットしていた。それもフルネームで。  こういう人はきっと営業に向いているんだろうなと思った。うちの会社にいる二年目の営業、桂君(かつらくん)にこの彼みたいな才能がほんの少しでもあればいいんだけど。  桂君はとにかく真面目なのだ。別に桂君とつきあっているわけでもないのに、なんとなく比較してしまう。 「ごめんなさい。明日、仕事なんで」  私は建設機械販売会社の営業所で事務をしている。といっても職場における私の立場はすごく曖昧だ。正社員が育休に入った穴埋めで雇われたパート社員。本来なら一年で契約が切れるはずのところ育休の女性が、旦那が県外に転勤になったとかで復帰せず退職。なぜか私はパートの身のまま継続雇用されていた。いつ切られてもおかしくない、あやふやな立場。 「そっか。仕事がんばって。じゃ」  爽やかな笑顔を見せると、彼はまた別の子に声をかけていた。  ふだんは土日休み。結婚式は土曜日だったので、いつも通り日曜日が休みだったら、結婚式には泊まりで参加していただろう。ところが営業所のトップである野村所長が、結婚式が近づいた先週になっていきなり日曜日に展示会をやると言い出したのだ。所長はいったん言い出したらたとえ嵐が来ようとやる男だ。かといって東京まで行って日帰りはきつい。新幹線で四時間かかるのだから。  そんなわけで所長に展示会の前日に東京で友人の結婚式があることを伝えた。すると、 「当日は頼むよ。なんたって事務所で女の子は山本さんしかいないんだから」 こちらの意図を察することなく、下品な声で笑ったあと、「山本さんは、お客さんに来場記念品を渡す係だから、しっかり笑顔を振りまいてサービスしてよ」と念まで押された。  まるで気遣いのない所長の言葉にそのときはうんざりした。だけど結婚式に行ってみると、泊まってまで祝福を謳い続けるなんて、それはそれで地獄だと思った。  職場も地獄。友人の幸せも地獄に感じる、最低な女。自分に嫌気が差し、背筋が震えた。そのとき、その震えが伝染したようにスマホが震えた。
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