頼りないね。桂君。

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 二次会に行った友人からメッセージが届いていた。そういえば別れ際、頼んでもないのに、「二次会の写真送るね」と言われていた。 送られてきた楽しげな写真や動画を見るとモヤモヤしたものが腹の底に湧いてくる。  写真から目を逸らし、社の前に立った。  手入れがされていない生垣を背に、社はひっそりと佇んでいた。社の前には賽銭箱が置かれ、片隅にはおみくじ自動発売機がある。もちろん私はそれを一度も引いたことはない。  スマホのライトをかざしコイン投入口を確かめると小銭を入れた。  音もなく白い紙切れが出てきた。  手にするとレシートみたいな紙切れでまったくありがたみが感じられない。百円も入れたのにと早くも後悔の念に襲われる。  とりあえず路地に戻り、街灯の下でおみくじを見た。  大吉だった。思わず小さくガッツポーズ。 『恋愛運。万事うまくいく』誰と? その相手が知りたい。 『金運。浪費癖を直すこと』したくてもできない。そんなお金はない。 『仕事運。いまのままでよい』うそでしょ。なにこれ。  どれも人をおちょくっているとしか思えない。これで本当に大吉なのかとおみくじを破り捨てようかと思ったとき、 『願い事。暗闇の中に光が訪れる』はあ?  最後に書かれた願い事の意味がわからない。おみくじを引いたことで余計モヤモヤが増殖し、アパートに帰った。  玄関のドアを開けると廊下の灯りが光のない部屋へと伸びた。その瞬間、思った。  まさか、いまこの瞬間に願い事が叶うとか。神様の力でなにか劇的な変化が起こるのではないか、そんな予感めいたものを感じ、しばらく暗闇に佇んだあと電気をつけた。  神様からのサプライズはないかと狭い部屋を隅々までチェックする。  部屋の中央には大きめのローテーブル、壁際のテレビ台には液晶テレビ、窓際に置かれたベッド、いつもと変わらない部屋がそこに広がっていた。  ベッドに仰向けになり枕を抱える。  そんな奇跡、あるわけない。そもそも私の願い事ってなんだろう。  正社員になりたいか? パートは嫌。でも、いまの会社で正社員というのも違う気がした。  恋人がほしい? 学生時代につきあっていた彼のことが頭にチラつく。  彼とは五年前に別れた。漠然と仕事をこなしながら、いつかくると信じていたプロポーズ。たまに残業することがあっても土日は休めた。だけど自動車販売会社の営業職に就いていた彼は忙しく、連絡もまばら、おまけに休みもあわず、会えない日々がつづいていた。  ある日。平日休みの彼が町の交差点を女の子と手をつないで歩く姿を見てわかった。会えないのは休みがあわないからじゃないってことを。
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