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歳を重ねるごとに会社とアパートを往復するだけの生活になった。自ら積極的に動く気にはならない。かといって身近に知る独身男性といえば職場のふたりしかいない。どちらも二十代で私より年下。ふたりのうち年上の矢次君は話が上手いけど目つきがイヤらしい。獲物を狙う鷹のような目をしている。
入社して二年目の桂君はおどおどしていて矢次君とは対照的にいつも目が泳いでいる。ボーとしたところがあって、せっかくの獲物も横から矢次君に奪われる。あのままだといつか営業から外されるかもしれない。本人は気にならないみたいだけど見ているこっちが気になってしまう。私がいなかったらいまごろ彼は干乾びていただろう。
姉の気持ちになって桂君のことを考えてしまう。といっても、実際の私に弟はいない。もし弟がいれば桂君みたいなのかなと勝手に想像しているだけだ。
けっきょくこのままひとりでもいいかという結論に思い至った。そうなると願い事はもうこれしか残っていない。ずばりマネーだ。
マネーはあっても困らない。
おみくじという紙切れが私の退屈な人生に束の間の波紋を起こした。
その夜、いつもは常夜灯をつけるのに消して寝た。
明日の朝、枕元に札束がつまれているんじゃないかという妄想にふけりながら目を閉じると徐々に意識が薄れていった。
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