頼りないね。桂君。

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「打ち上げ行くぞ~」  展示会が終わり、片づけが済むと、お酒が好きな野村所長が周りに声をかける。 「所長、お供します!」  すかさず矢次君がすり寄る。矢次君は展示してあった建設機械の見積を何社かに依頼されていた。対して桂君といえば見積依頼はゼロ。というか存在感すらなかった。困ったもんだ。 「俺は行かないよ。娘を風呂に入れてやんないといけないから」  マイペースな吉岡さんは娘を理由に断る。本当は飲めば長い所長のお酒につきあうのが嫌なんだろう。私だって行きたくない。 「桂も行くだろ?」  矢次君は抜かりがない。所長にコバンザメのように貼りつく矢次君は、所長の話に絶妙に合いの手を入れる。そのあいだ、お酒のお替わりに気を配らないといけない。でも桂君がいればその役を頼める。だから是が非でも連れて行きたいのだ。  きっと桂君は断れないだろうな。 「はい。行きます」  やっぱり。  仕方ない。つきあってやるか。  居酒屋からはじまった打ち上げはいつものように所長の音頭でスナックへ流れ、お店を出たときには日付が変わろうとしていた。カラオケ好きの所長がマイクを離さず歌い続けるもんだから帰るタイミングを逸して、ダラダラ無駄な時間を過ごしてしまったのだ。 「お疲れさまでした」  やっと帰れることにホッとした。 「山本さん、タクシー呼ぶから待って」  矢次君から呼び止められたけど、 「大丈夫よ。いつも歩いて帰ってるから」  日付が変わる時間帯はタクシーを呼んでもなかなか来ないことを知っている。私は三人に手を振って歩き出す。 「気をつけて帰れぇ。また明日なっほっほぉ」  所長が妙なアクセントをつけて声を張った。まだカラオケの余韻を引きずっているようだ。聞こえないふりをして路地を曲がった。
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