頼りないね。桂君。

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 飲み屋街、といっても駅前に集中しているだけで少し歩くと国道沿いにぽつぽつ街灯が並ぶだけの田舎町。アパートまで歩いて十五分ほど。歩くことには慣れている。  街灯のない道は闇が深い。その闇に堕ちそうで恐ろしさを感じた。  例の神社まで来たとき、鳥居の向こうからガサガサと音が聞こえた。  暗がりのなかに目を凝らす。  黒い大きな塊が社の前で動いていた。動物じゃない。人のかたちをしている。それは賽銭箱の周りでなにかしている。はっと気がつき、「どっ、どろ……」と言いかけて恐ろしくなった。こんな夜中に助けてくれる人なんていない。気がついたときは遅かった。  大きな影が振り返る。刺すような視線を感じた。  逃げなくちゃ。わかっているのに動けない。黒い影がものすごい勢いで向かってくる。  鳥居のほうから腕が伸び、すごい力で引っ張られた。見たこともない男がギラギラした目で私の手首を掴んでいる。  やめて。叫びたいのに喉の奥からは掠れた空気が漏れるだけ。声が出せない。  男は無言のまま私の背後にまわると首と下腹部に太い腕を絡ませた。  抵抗したいのに、なにもできず、ずるずる暗闇に引き摺り込まれていく。  全身に力を籠めて肘を男の脇腹にぶつける。だけど男はびくともしない。それどころかさらに力を強める。粗い息が耳にかかる。  だれか助けて。お願い!  恐怖のあまり体が動かない。抵抗できずに目を閉じたときだった。
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