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(ヒューマンドラマ)転売ヤーを倒す(?)話
『ジャスティスチェンジャー』
「あぁあぁ! もう腹立つ!」
大学の授業が終わり、頭を掻きむしりながら帰路についていた。そりゃ、好きなものために糸目なく金を出すなんてバカバカしいかもしれないが、それを利用するなんて。無性に何か殴りたい気分になって周囲を見る。
すぐ隣のコンクリート塀は、拳が割れるな。電柱も同じか。歩いていると、低木ででてきた塀が見えてきた。これならいける、と拳をそれに突き出した。その瞬間、枝が指の間に刺さり、すぐに拳を引くことになった。さらに、低木の裏から犬が吠えてくる。俺は急いでそこから立ち去っていった。手の甲が少し切れてヒリついた。
こんなんで憂さ晴らしをするなんて、情けない。間違ってるなら、注意すればいいだけじゃないか。深呼吸をして背筋を伸ばし、カッと目を開ける。歩幅を大きくして腕をふり、しっかりと歩いて行く。
しばらく帰り道を進んでいると、目の前にいたスーツの男がタバコをふかしていた。ここ喫煙所でも何でもないのに。じっと見ていると、男はついにタバコを落とし、踏み消した。そして、正面の横断歩道を渡っていく。俺は慌てて横断歩道にいる男の元へ駆け寄った。
「ちょっと、ポイ捨てしない、で、くだ・・・・・・」
振り返った男は厳ついサングラスをしており、その奥からは切られたような傷が覗いた。ワイシャツは豪快に開け、金属のネックレスがついていた。今時こんな典型的な奴がいるのか、とも言えないほど俺は固まってしまった。
「なんか用か?」
ドスの利いた声で質問され、ねじれそうなほど首を振る。男は再び横断歩道を渡っていき、それを眺めることしかできなかった。そして、すぐ近くからクラクションを鳴らされる。
「道路の真ん中いつまでも突っ立ってんじゃないわ」
女の人に大声を上げられ、横断歩道を引き返していった。元はといえばポイ捨てした奴が悪いのに。頭を強く掻きむしり髪を引っ張ってしまう。自分でも分かりやすいほど、イライラしていた。
正義感があっても、それを補う力がないと意味ないってことか。かといって、どうしたら・・・・・・。
自分の非力さに考え込んでいると、視界に白衣が映る。よく見れば裾の長い白いコートだった。あやうく人とぶつかりそうになっていたのか。俺が咄嗟に離れると、コートを着ていた人物には中性的で年齢も分からない顔が乗っていた。
「大丈夫ですか? 目の前にいる私に気づかないほど、何か『悩み』を抱えているようですね」
フクロウのような大きな瞳が俺を隅々まで見てくる。その人は距離を詰めてくる。
「いや、別にそんなことは」
「なら、その髪型はどうしたんですか? 鳥の巣みたいにグシャグシャになってるではありませんか」
指摘され、慌てて髪を手ぐしで整えた。何もかもお見通しと言いたげな表情をするその人に俺は愚痴を零していた。
「間違ってるって言いたいのに、相手が強すぎてハッキリと言うことすらできない。俺に力があればいいのに」
ってなんで初対面の人に言ってんだろう。案の定その人は悩みを聞いて満面の笑みを浮かべていた。
「悩みを抱え込んでいて、今までとても辛かったですね。でも、大丈夫。そんな貴方にはこちらです」
そう言ってアタッシュケースから取り出したのは、特撮で出てきそうな変身デバイスだった。その人は有無を言わさず俺の左手首につけてきた。
「こちらは特定の感情を力に変える装置ですね。今回の場合ですと、正義の心を力に変える、『ジャスティスチェンジャー』とでもお呼びしましょうか」
つづく
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