(ヒューマンドラマ)お菓子の家の魔女が心の豊かさを教えてくれる話

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(ヒューマンドラマ)お菓子の家の魔女が心の豊かさを教えてくれる話

『魔女のショクザイ』  主人公のアオイは見知らぬ森に迷い込み、『ヘンゼルとグレーテル』に出てくるようなお菓子の家を見つける。両親から虐待を受け空腹のまま自宅を出たアオイは思わずそのお菓子を食べてしまう。当然、家から魔女が出てきたが、物語のようなおばあさんではなく疲れ顔の女性だった。  魔女は空腹であるアオイを家の中に招き入れ、食べられるのではないかと警戒しながらも家に入り、料理が出来るを待つ。自分の家ではろくに食事がなかったため、魔女が作る料理や調理する姿にアオイは感動を覚える。  おばあさんではないことを不思議に思ったアオイはお菓子の家について質問する。魔女はお菓子の家には忌まわしき過去があり、親戚から譲り受けたという。お菓子の家のせいで酷い目に遭ったが、それでもアオイのような子どもを手助けするような活動を続けていた。  忌まわしき過去=『ヘンゼルとグレーテル』の内容ではないかと察したアオイはなぜ、無関係な魔女が手助けをするのか、と疑問を口にする。すると魔女は「自分が苦しくても他の人間を苦しめてはならない。それは心の貧しい者が行うこと」と説く。  その言葉にアオイは自分のことがよぎった。  クリスマスの日、教室ではクラスメイトがプレゼントでもらったおもちゃを見せていた。プレゼントをもらえないアオイはうらやましさからクラスメイトの物を壊してしまったのだ。事情を知らないクラスメイトたちがアオイを責め立て、味方はだれもいなかった。  思い出しているうちに料理が完成し、アオイはその美味しさに舌鼓を打つ。 完食すると、アオイは「どうしたら心が貧しくならないか?」と問いかける。すると魔女は「自分が見えている世界が全てと思わないこと」と伝える。  世界を知ることで自分と同じ悩みを持つ者が他にもいること、一見羨ましく見えても別の悩みを抱えている者もいること、諦めなければ悩みを解決する手がかりを見つけられること。そして、助けてくれる人と会えたときのために誠実に接することを伝えられる。  子どものアオイには難しい言葉の数々に理解が追いつかない。さらに疑問が湧いた彼女だったが、目の前のスープが溢れ出し飲み込まれていった。  気がつけばアオイは部屋で寝転んでいた。隣では赤ん坊が泣き、それを騒がしいと空き缶をぶつけてくる。周囲の様子に彼女は自分の現状を思い出す。  虐待を受けていたアオイは大きくなると家を出たが、仕事が上手くいかず一時的な感情から酒の席で知り合った男との間に子どもが生まれてしまう。両親を憎みながら両親と変わりない人生を歩んでしまった自分に絶望しながらも、男からの暴力に耐えかねたアオイは赤ん坊とともにアパートを抜け出す。  太陽が照りつける中、楽しそうな家族に苛立ちを覚えながらも涼しい場所を見つける。そこは市役所であり、泣くじゃくる赤ん坊に人々が驚く。困り果てるアオイに一人の職員が声をかけてくる。  それはかつてプレゼントを壊されたクラスメイトだった。その身なりから自分とは違う羨ましい人生を歩んでいると感じたアオイは彼女を憎む。そこで魔女の言葉を思い出す。  魔女の教えを思い出したアオイは泣きながら、彼女に助けて欲しいと懇願した。すると、かつてのクラスメイトはアオイに手を伸ばし彼女を控え室へと連れて行った。最後に救いを求めることのできたアオイは少しずつではあるが、明るい未来へと歩み始めた。
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