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(ヒューマンドラマ)新興宗教の信者であるおばあさんと少女の話
矢場教子(やば きょうこ)は幼い頃に父親を交通事故で亡くし、体調が悪いながらも働く母と双子の弟と暮らしていた。
彼女たちの元には時々近所に住む「ヨネおばあちゃん」が来て余った料理を分けてくれたり、家事や育児を手伝ってくれたりした。
しかし、他の近所の人や学校のクラスメイトからの視線は冷たい。
それは、ヨネおばあちゃんがある新興宗教の信者だからだ。
その新興宗教は信者が教典を片手に家を訪問しては教えを説いていた。
また、その教会では信者が教祖とともにヨガや瞑想、精進料理教室などをしていた。
ヨネおばあちゃんが初めて来た頃こそ当然教えを説きに来ていたが、教子の家庭事情を知るうちに手伝うことも増えていった。
教子自身も家族も新興宗教に入信することはなかったが、それでも通ってくれるヨネおばあちゃんを慕っていた。
しかし、ヨネを慕う教子をクラスメイトは『ヤバ教』とあだ名を付け、バカにしていた。
教子はヨネおばあちゃん自身を見ていない周囲に腹を立てていたが、同時にその新興宗教の不気味な噂も絶えないことに頭を悩ませていた。
ヨガや瞑想などは神に選ばれるための修行であり、神に選ばれれば最高の幸福を共に過ごしたい者と分かち合える、というものや、神に選ばれるための最終試練として『審判の聖水』を飲む儀式がある、というものだった。
教子は噂への不安からヨネおばあちゃんに新興宗教の脱退を求めた。しかし、彼女は首を振った。
ヨネおばあちゃんは実は教子と同じように夫を交通事故で亡くしていた。
悲しみにくれていた彼女を救ったのは新興宗教であり、それに恩義を感じると同時に神に選ばれることにより夫と再会できるかもしれないという希望も持っていた。
しかし、一方で新興宗教のおかげで教子たちと出会うことができ、誰かのために生きることができて幸せだとも語った。
教子はヨネおばあちゃんが自分の家に通う理由を知り、脱退は叶わなかったものの彼女をより好きになった。
だが、ある日を境にヨネおばあちゃんが家に来なくなった。
その日のニュースでは近所の新興宗教の集団自殺が取り上げられ、自殺したフリをしたあと、お布施を持って逃げようとした教祖が逮捕されていた。
近所の人間やクラスメイトはヨネおばあちゃんと信者がいなくなって安堵したようだった。数少ないヨネおばあちゃんの優しさを知る教子は夫に会えることを願いながら、今日も生き続ける。
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