(現代ファンタジー)義妹を呪縛から解き放つ話

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(現代ファンタジー)義妹を呪縛から解き放つ話

「むかしむかし、あるところに一つの小さな村がありました。 そこは悪い魔女に支配され、魔女の言うことを聞かなければ魔物たちに襲われてしまいます。 困り果ててしまった村の人たちは、国を救って下さるように、と神様にお願いをしました。 すると、神様は一人の娘に『あかいばら』を授けました。 娘はその『あかいばら』で魔女を倒すことが出来ました。そして、平和に暮らしましたとさ、おしまい」 「ねえ、おはなしはこれだけ? あかいばらってなに? つづきはないの? 魔物はどうなっちゃうの?」  幼い俺の問いかけに母は温かく微笑みかけた。 「そうねぇ、護(まもる)がもう少し大きくなったら分かるんじゃないかしら」  焦げ茶色の髪に白い肌、そして細くなった目から覗く青い瞳。血の繋がりもなく見た目も全く違う俺を聖母のように抱きしめる。 「大きくなったらじゃなくて、今知りたいの」 「もう、寝る時間なのに起きてようとする子には……」  今度はいたずらっぽく笑い、俺をくすぐり始めた。当然俺はくすぐったさから大声で笑い、質問どころではない。  そんな笑いの絶えない日々がずっと続くと思っていた。  数年後、その日々が失われると同時に母が言った意味を知ることとなった。  母を失っても季節は巡り、庭の花はまた蕾をつけていた。  いつものように手入れをして屋敷に入ると、玄関の方では争うような声が聞こえた。 「何度言ったら分かるんだ。学校へ行かせることすら恐ろしいのに、都会に遊びに行くなんて」  父がため息をつき諭すが、妹のつぼみは声を上げる。 「私はもう高校生だよ、少しくらい好きにさせて。いつまでも子ども扱いしないで」  彼女はそう叫ぶと、俺の横を通り過ぎて自分の部屋がある廊下を進んでいく。横切る瞬間、青い瞳が涙で歪んでいたのが見えた。  僅かにすすり泣く声が消えていく中、父は俺と目が合うとため息をつく。 「なぜ理解してくれないんだ。つぼみにもしものことがあったら大変なことになるのに」  その大変なことを知らないから辛い思いをしてるんだ、と言ってやりたかったが周囲から向けられる視線がそれを許さない。  自分も視線を向ければ、そこには父の兄弟姉妹、親戚たちがいた。やがて、父が玄関から離れていくと、親戚たちも自分の部屋へ戻っていく。  この未灰(みはい)家は親戚が皆この屋敷に住んでいるのだ。子どもが生まれれば皆で育て、親族の誰かと結婚をする。  まるで屋敷の中で小さな村が形成されているようだった。そして、その中で俺は異質な存在だった。  俺はつぼみの部屋の方へ歩き出した。長い廊下には絵画が飾られ、階段にはシャンデリアに明かりが灯っている。  その中をいとこやはとこにあたる子どもたちが走っていた。その側では母親たちが談笑を楽しんでいる。  楽しげな空気を差し置いて、ついにつぼみの部屋に到着した。ノックしようとすると、ドアが少し開いており泣く声が聞こえてくる。   つづく
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