ヤメラレナイヤマイ

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 俺は音を立てないよう慎重に廊下を進む。暗闇に視界も慣れてきたところだ。居間まで到達するとこれまた慎重に、取り付けられたチェストの中身を確かめる。  最近の高齢者がいまだにタンス預金をしているかは疑問だが、とりあえずは侵入可能な家を選ぶことにした。この家は鍵の施錠もルーズで、周りに空き家が多いのも確認済だ。    あの夜、俺は会社員を装った二人組に拉致されて、黒いセダンに一晩中監禁される羽目になった。やつらは散々脅しをかけてきた。マグロ漁船で一年間働けばいくらになるとか、どこそこの臓器を国内のブローカーに売ればいくらになるとか、そんな話だ。そして極めつけはこうだった。  『そういやお前、彼女がいたな。美波ちゃんだっけか?そいつも連帯保証人だ。徹底的に体で稼いでもらうからな。ああ?顔が不細工?関係ねえよ。ブスにはブスなりにしっかり稼げる変態さんご用達の店があるからよお。』  俺は必ず借りた金は返すからそれだけは勘弁してくれ、と泣いてすがった。そして決意が固まった。  と、いうわけで俺には時間も余裕もない。あらかた調べ終わって次の部屋に移ろうとしたとき背後で物音がした。二階の住人が目覚めて下りて来たらしい。俺は脅し用に隠し持ったナイフにそっと手を触れる。室内灯が灯った瞬間、住人と目が合う。  じいさんばあさんの二人暮らしかと思ったら、こんなに屈強な息子が同居していたとは。  そいつは驚愕の表情を浮かべた後、何事かわめきながら俺に近づいて来る。気が付けば考えるより先に体が動いていた。
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