偽りの結婚の先に

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偽りの結婚の先に

 そこから数日、朝も夜もない生活をした。  最低限の身の回りの世話をしつつ、彼女をほとんどずっと寝台に繋ぎ止めていた。  ――死んだ彼のこと、事実のみを言います。おそらく、子どもの頃の落馬が原因ではないかと。  子どもができない原因は兄にあり、二人は身体の繋がりをもったことがないとのことだった。 「世継ぎが望めない自分が王になったときから、彼は国の滅亡までも予感していたみたい。太陽の国は、あっけなく戦場で王を失い、あの栄華の日々が嘘のように脆く敗れ去ったわね。千年に一人という予言の姫を王妃に迎えていながら」 「それは……」 「『千年に一人の、稀有な運命を持つ姫君。姫が手を取る相手は、世界を繁栄に導く王となるであろう』……私は、誰の手も取っていなかった。あの国の滅びを招いたのは、偽りの関係に甘んじて、己に嘘をつき通そうとした私なのかもしれない」  暗い光を湛え、唇を噛みしめて俯くイシスに、サイードは言わずにはいられなかった。 「肉体なんて、魂の枷でしかない。心と心で結ばれていたのなら、あなたたちは真の夫婦であったはず。敗戦の原因はもっと現実的な出来事の積み重ねです。決してあなたと兄の問題では」  言いながら、これは嘘だと頭でわかっていた。  
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