偽りの結婚の先に

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 身体を繋げてしまったときから、逃れ難いものが彼女と自分の間には確かに存在している。  恋と信じた思いに身を任せて、自分が真に相手を選んでいるかいないかも見えていなかった乙女は、もうそこにはいない。  彼女は選んでしまったのだ。  現国王の末の弟と、王妃。その間柄のままでは、決して結ばれることなどなかった相手を。  たとえば、国が滅亡してすべてが砂塵の彼方に消えて有耶無耶になり、名を捨てた一対の男女として逃れた先で寄り添うのでもない限り。 「ずっと……あなたが私を見ているのを感じていました。それはとて熱くて、恐ろしくて、心地よくて。いつかあなたに奪われてしまいたいと……。心で思うだけならば自由だと。でもその時点で、私はアッラシードを裏切っていたのだわ」  アッラシードに恋をしたのも、好きだったのも、本当だったときもあったのに。  彼女は寂しげに目を細めて、微笑んだ。 「敗戦のごたごたで、俺は皆に死んだと思われてるはずです。その立場を利用して、あなたを奪った。この罪はあなたではなく、俺のものです」  誤魔化しだと知りながら、愚にもつかない言い訳をたてに何度も身体を重ねた。浅ましいとは思いながらも、互いへの渇望はやまず、抱き合うほどに焦燥が募った。 「サイード、あなたはどこか遠くへ行くのがいいわ」 「行くとしたらあなたも一緒に。置いてなどいかない」  何度言っても、彼女は淡く微笑むのみ。 「月の国では私の兄が王位についているし、砂漠は隊商都市マズバルがこのまま諸都市の王として君臨するはず。『覇王』は世を乱してしまう。どこか遠くで」 「ひどいですね。つまり俺を、追放すると」  他愛もないようでいて、別れの予感に満ちた日々を過ごし、やがて月の王宮からの追手がその村へと到達した日に、別れた。  彼女は月の王宮へと帰った。そうとは言わなかったが、おそらく敗戦国(アスランディア)王弟(サイード)の生存を隠す為に。  サイードは、かねて彼女と話した通り、遠くを目指すことにした。  * * *
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