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風に吹かれて
故郷はすでに滅び、近隣の国には行くなと言われてしまっている。
であるならば、いっそ敵国にでも流れて、自分がこれまで生まれ育った熱砂の国がどのように見えるか見てみよう。
「草原の国がいいかな。馬にも乗れるし、剣も使える。部族間抗争でいつも落ち着かない場所だし、何かしら仕事はありそうだ」
月の国から馬で旅立ち、やがて広大な草原地帯に入った。
地上を包み込む蒼穹。
風に吹かれてさやさやと葉擦れの音を響かせる果てなき草洋。
その地で生きていく。
(いつかまたあなたに会える日まで)
月の王宮に帰った彼女が、末永く幸せに暮らしていることを願いながら、サイードは未知の世界へと足を踏み入れたのだった。
やがて草原の覇者となった彼の名は風に記され、遥か遠くの国へとも届くことになる。
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