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打ち滅ぼされ、焼け落ちた「太陽の国」から、「月の国」へと、道なき砂漠を一路、落ち延びてきた一団があった。
陽射しの強い砂漠では、昼に休み夜に進むことも多いが、当初は昼となく夜となく死に物狂いでの強行軍であった。しかし、ここまで来れば安全という油断と疲れのせいか、ここ二、三日の一行の空気は、どことなく緩んだものとなっている。
その日、一団が夕暮れ前に野営にと決めた地は、近くに灌木や岩がまばらにある場所だった。すでに砂漠地帯は脱していたが、見渡す限り群れを成す襲撃者が身を隠す場は無く、差し当たりの危機はないものと判断したらしい。
「明日あたり、月の国からの迎えと合流できるだろう。ここまで来ればさすがにどこの手の者も……」
旅の終わりが、見え始めていた。
節約してきた水も、食糧も、今日はいつもより多めに使っても良いことにしようと、一団の長が判断したらしい。従者たちの顔がほころんでいて、話し声も弾んでいる。
ほとんどボロと化した布を頭からかぶった男が、身動きひとつしない人形のような人に何事か話しかけた。相手から反応があるかどうかは気にしていない様子。荷を解き、野営の準備を進める。
頭から全身を布ですっぽりと覆った、小さな人影。
作業には参加せず、広げられた絨毯の上に置物のように置かれている。
胸の前で、布を手で押さえている。意識はあるらしい。
時折、通り過ぎる者に「姫様」と話しかけられてもいる。しかし、動きがない。
魂のこもっていないただの人形。
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