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一緒に過ごした春夏秋冬。春の日も夏の日も、秋の日も冬の日も。一緒に撮った写真も。一緒に行ったテーマパークも。一緒に通った学校も。全てが思い出となって消えてゆく。私の心にだけ残って、向こうの心には、もうきっと私との思い出は残っていない。私と彼は赤い糸で結ばれていなかった。別れる運命だったみたい。
「え〜、平安時代の次は、鎌倉時代にうつる。この時代の文化は〜……」
はぁ、6限の歴史の授業。この机から右斜め前を見るといるんだよなー。私の元彼。歴史の授業なんて、選択しなければ良かった。そうすればこうして目に入ることはなかったのに。歴史、特に好きでもないけど、一緒のクラスにならなくても同じ教室で授業が受けられる。ただ、それだけの理由で歴史を選択した。私がバカだったのだ……。
「ただいまー」
家に帰って自分の部屋に行くと、意味もなく窓を開けた。
はぁ、この窓から下をのぞくと、手を振ってくれた、あの修哉はもういない。
私は窓を開けたまま、学校の課題に取り掛かった。
痛っ!突然、何かが私の頬にあたった。
何これ、紙飛行機?何か書いてある。
『なお、久しぶり。元気にしてっか?俺、今帰ってきてて、隣の家にいるよ。久しぶりに顔みたいから、窓の方見て。りゅう。』
りゅう……?あ!隆哉だ!懐かしい。1つ上で、大学1年生。高校卒業を機にひとり暮らしを始めるっていって家を出た。私の幼馴染。
窓の方を見て……か。
窓の方を見ると、りゅうが手を振ってくれた。
「なーおー!げんきー?」
「げんきー!そっちはー?」
「げんきー!話したいから家おいでよー!」
私は外を出てりゅうの家のインターフォンを押した。
「よっ!久しぶり!中入って」
少し大人になったりゅうが出迎えてくれた。
「なぁ、なお、そろそろ貸した小説返せよ」
「え?小説なんて借りたっけ?いつ借りた?何年何月何日何曜日、何時何分何秒、地球が何回まわったとき?」
「うわ、その聞き方懐かしい」
「アハハハ」
昔話で盛り上がった。りゅうといると懐かしい話がたくさんできる。気づけば失恋したことなんて忘れてた。まぁ、一時的だけど。
「で、本当に借りたっけ?」
「え、わかんねー」
なんか借りたような借りてないような。昔のことすぎて覚えてないや。
「ねぇ、見て?そばかす!!」
りゅうがほっぺたに名前ペンでそばかすを書いて笑わせてくる。
「ちょっと、やめなよー!それじゃ、ほくろだよ」
「アハハハ」
りゅうといると面白い。私の心は自然と小学生の頃に戻る。
あの何も知らなかった。恋の楽しさも苦しさも、失恋の悲しさも。何も知らなかったあの頃……。
「なぁ、今からプラネタリウム行かね?小学生の2学年合同校外学習で行った」
「いいね!懐かしいし行こう!」
私達は学年の人数が少なくていつも2学年合同で校外学習に行っていた。中でも3.4年生で行ったプラネタリウムはりゅうとの思い出が詰まってる。
本当は同じ学年同士で班を決めなきゃいけなかったけど、りゅうが無理言って私とりゅうで班を一緒にしてくれた。
「うわー、変わってないね」
「だな。あ、みてみて!まだあるよ、この大きい椅子」
小学3年生のあの頃、りゅうと休憩したこの大きな椅子。懐かしいな。りゅうといると全てが懐かしい。
「あ!!思い出した!!」
2人同時に叫んだ。
プラネタリウムの外のお土産コーナー。冬のオリオン座がプリントされたノートを見て思い出した。
「借りてた小説の名前、雪の日のオリオン座だ」
「えっと〜、確かここにしまってたような気がする……」
私は押入れの中のダンボールをあさった。
「なかったらないでもういいよ?」
「あった!!」
『雪の日のオリオン座』
「これも懐かしいな〜!」
「あれ?何か挟まってる」
『どようびに、わたしたちは、けっこんします。りゅう、なお』
そこには全部平仮名で書かれたメッセージ。
「なんだこれー!」
「アハハハ」
『どようびに、わたしたちは、けっこんします。りゅう、なお』
「本当に土曜日に結婚したね」
私はりゅうと赤い糸で結ばれていたのかもしれない。
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