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 その昔、各地の神々をも平定したという英雄 日本武尊(やまとたけるのみこと)もこの伊吹山の神には太刀打ち出来ずに命を落とした。  元来、蛇神の霊力は非常に強い。その上に頭を複数持つものは、その数だけ霊力が増していると考えねばならない。注意すべきは、頭が八つなら霊力は八倍ではなく、八乗になるということだ。つまり、八岐大蛇の霊力は、通常の蛇神とは桁違いに強大なものなのだ。神話の時代には素戔男尊(すさのをのみこと)が退治に成功した例があるが、素戔男尊自身が高位の神であった事を忘れてはならない。  神ならぬ身で、八岐大蛇に立ち向かうのは無謀そのものだ。  それにしても、いかに狂暴な神でも、人や獣の往来を無闇に妨げるような真似はしない。小さな獺など、八岐大蛇にしてみれば、塵にも等しい存在で、普通ならば何の関心も持たないところだ。  ところが(くだん)の獺には、尋常ではない興味を示し、眷族も使わずに自ら姿を現すに至った。  その理由は、獺の方もただの獺ではなかったからだ。
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