藤原元利麻呂

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藤原元利麻呂

 藤原(ふじわらの)元利麻呂(もりまろ)は日向に生まれた。  父は藤原藤主といった。藤主は平城上皇の変(薬子の変)で首謀者として処刑された藤原仲成の息子で、仲成の罪に連座して流罪となった人物である。貴種といえども、位記を剥奪されて無位無官となった罪人の生活は劣悪で、しかもいつ殺されるか分からないという恐怖も常につきまとう。そんな暮らしが十年以上にも及ぶと、夢も希望もない自堕落な日々を過ごすだけの生きた屍に成り果てた。元利麻呂の母親となった女性は、たまたま藤主の身の回りの世話をしていた娘だったが、藤主は彼女の名前すら満足に覚えなかった。愛情の欠片すらない。流刑地が日向から豊前に移った際には、当たり前のように彼女を捨てた。  愛情がないのは、息子に対しても同様だった。豊前移配の時、まだ四歳だった元利麻呂は母親から引き離された。その後は、幼い子供にも関わらず、単なる労働力として酷使される日々を送った。  そんな元利麻呂に転機が訪れたのは、彼が十二歳の時だった。  仁明天皇即位の大赦により父の藤主が遠流から近流に減刑される事になった。平安京に近い備前に移る際、なんと藤主は借金返済の為に、元利麻呂が死んだと届け出た上で、彼を唐人の奴隷商人に売ってしまったのだ。  彼の前途には地獄が待っているはずだったが、ここに至って初めて天が彼を(たす)けた。
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