藤原元利麻呂

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 実は徐阿尼は、唐北方の鮮卑族出身で、先祖伝来の(いにしえ)の呪術を身につけていた。それは死んだ猫の霊とされる〈猫鬼(びょうき)〉を使役して人を呪うというものだった。彼女はその呪術を用いて他人の財産を奪って生きていた。  偶然その正体を知った元利麻呂を害しようとして近づいたものの、徐阿尼は彼を籠絡(ろうらく)する事が出来なかった。元利麻呂の心中には深い怨念が宿っており、それが逆に彼の正気を支えたからだ。  結局、徐阿尼は正体を暴露されない事と引き替えに、元利麻呂に従う契約を交わすことになった。 「いずれ倭に帰ったら、お前のその力を借りることになる」  元利麻呂の言葉は、すぐに現実のものとなり、徐阿尼は彼に付き従って日本へ渡った。途中で元利麻呂を裏切る機会は幾度もあったが、彼女はそうしなかった。その理由は、不覚にも元利麻呂の若い肉体の虜になり、彼を失うことを惜しく思うようになってしまったからだ。
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