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日本に帰った元利麻呂は、太宰府でその身元が疑われたが、遣新羅使 紀三津の執り成しによって特別に入京が許された。
平安京に向かう途中、父親の流刑地である備前に立ち寄った際、彼は父親の消息を密かに調べた。そして父親の居所を知ると、徐阿尼を連れて訪ねて行った。
「どなたかな?」と藤原藤主は言った。薄情極まることに、彼は息子の顔を見てもそれと気づく事はなかった。元利麻呂が息子だと明かした時も、あからさまに迷惑そうな顔をした。
それを見た元利麻呂は、徐阿尼に命じて猫鬼を藤主に取り憑かせた。
途端に激しい悪寒と全身の痛みが藤主を襲い、彼は苦しみ悶えた。
しばらく苦しめた後で、痛みを和らげてやり、藤主に質問を投げかける。彼が満足に答えないと先の倍程の苦しみを与える。それを何度も繰り返して拷問し、元利麻呂は自身の不幸な境遇の理由を聞き出した。
すべて聞き出した後、元利麻呂は徐阿尼に命じて、最大限の苦痛を藤主に与えた。
自分をこの世に産み出し、物のように売った男が、悶え苦しみながら息絶えていく様子を眺めながら、元利麻呂は最初の報復を果たす喜びに薄笑を浮かべた。
父親を始末した元利麻呂は、平安京に入ると、徐阿尼の呪術を使って京職の役人を操り、父親の叔父で名前の良く似た藤原藤生の息子という偽戸籍を作り、何食わぬ顔で平安京の住人となった。
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