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1−1 冒険者ギルドの依頼①
岩陰に息をひそめて狙いを定める。
敵はキラーアント。でっかい蟻の魔獣だ。
地面に掘った大きな穴から出入りするその数は数十匹。小さな蟻と同じく、巨大化しても群れで動くからタチが悪い。それに加えてこいつらは毒を吐く。
王都の西の森の中で大量に発生しつつあるキラーアント退治。冒険者ギルドの依頼ランクはEだ。
「でっかい蟻ってキモいわね。キラーアントじゃなくてキモいアント、キモーアントよ」
「ジルヴァ、何その武器」
隣りで岩陰にピタリと張り付くジルヴァに聞く。
「見りゃわかるでしょ、弓よ」
「いや、そうじゃなくて。ジルヴァの武器って剣じゃなかったっけ?」
「馬鹿ね、たくさんいる敵には剣より弓の方が効率いいじゃない。ほら時間ないんだからじゃんじゃんやっつけるわよ」
問題は当たるのかってことだけど。まあいいや確かに時間がないんだ。さっさと片付けよう。
「よし、じゃあ俺、火魔法であいつら焼き払ってくる」
「え、ジルヴァ、フィル!作戦を……」
冒険者パーティのリーダー、クロスの意見は無視して俺とジルヴァは同時に岩陰から飛び出した。
「ちょっと、フィル!邪魔しないでよね!群れに向かってじゃんじゃん射るから避けなさいよ!」
「そっちこそ!矢なんか射ったって俺の火魔法で燃えるから邪魔なだけだろ!」
口論しながら駆け出たはいいけど
「フィル!火魔法は森が燃える!ジルヴァ!正面から突っ込むと毒を吐かれるぞ!」
クロスの警告で足を止めた。
「えっ、毒って……」
「あ、森で火魔法はだめか」
俺とジルヴァが足をピタリと止める。目の前にはでかい蟻たち。えっと、どうしようか。
「フィル!地魔法で魔獣の足場を崩してください!ジルヴァ!木の上に昇って上から援護を!クロス様は巣穴の外にいるキラーアントを、私は巣穴の中のを対処します!」
クロスではない、もう一人の仲間の女の子の的確な指示が飛んでくる。
地魔法ならお安い御用。俺は言われたとおり目の前のキラーアントの群れの足元の地面を地魔法でデコボコにした。
ジルヴァは木の枝の上に飛び移り弓を構える。
揺れる地面でバランスを崩したキラーアントにクロスが剣で切りかかり、クロスの死角から襲いかかろうとする敵にはパルシファーが飛びかかる。
指示を出した女の子、ナターシャは巣穴に近づき、水魔法を発動した。
巣穴を水攻めして水没させるつもりか。悪くない考えだ。悪くないけれども。
水量と勢いが足りない。彼女の手から発した水魔法は、巣穴を埋め尽くすどころかシャワーで気持ち良さそうなくらいだ。癒してどうする。
新しい仲間のナターシャはアルミラに似て頭がいいし計画性があって助かる。俺とジルヴァは突っ込むしか脳ないからね。ただ攻撃魔法が苦手なところまで似ているのが残念だ。
……しょうがない、加勢するか。
地魔法を使いつつ、地中の水脈の水を魔法で増幅させる。巣穴の中を激流が走る。入口からキラーアントが噴出しないように、慌てて防壁魔法で蓋をする。自分で使った魔法ながら水の勢いがすごくて抑えるのも必死だ。
巣穴が水で満たされ耐えること数分。そろそろ片付いたかな。
クロスの方を見るとそっちはそっちで決着がついていた。
キラーアント数匹と小さな池のようになった巣穴。
「うん、初めて組んだパーティにしては中々かいいチームワークだったわね」
木の上から降りてきたジルヴァが満足そうに言う。ジルヴァはなんも活躍してなかった気がするけどな。
「すみませんっ。その、私が支持を出しておきながらまったくの魔力不足で……。フィル、ありがとう」
ナターシャが俺に礼を言う。
「いや俺の方こそ助かった。あのまま火魔法使って森も燃やしてたら冒険者ランク、降格させられかねないからな」
「Fランクより下はないから冒険者ギルドの登録抹消ね。というか森に火を放つなんて闇魔道士認定されて王都追放ね。良かったわね、フィル。追放されなくて」
ジルヴァが容赦なく言う。
追放て。俺、けっこうこの国に貢献してると思うんだけど。でも冒険者の登録抹消はあり得そうで怖い。
「そういえば地魔法と水魔法両方同時に使ってましたけど、あれはかなり高度な魔法の使い方ですよね?とてもFランク魔道士の使う魔法の使い方では……水魔法の方は精霊の力も借りているように感じましたし」
ナターシャがアゴに手を当て考え始めた。
あ……そういうの気づく人?
やべえ、なんて言い訳しよう。
「あ、いや、それは……たぶん見間違い……」
「ナターシャ、細かいことなんて今はどうでもいいじゃない。要はランクが上がりゃいいのよ。じゃあ、次行きましょっ」
上機嫌のジルヴァがナターシャの腕を引っ張る。ジルヴァは細かいことは気にしないから助かる。
「ええ……」
ナターシャが遠ざかる俺を不思議そうな目で見る。俺は目をそらす。そらした目線の先にクロスがいた。
「わりと本気なんだな」
クロスが退治したキラーアントを剣でつつきながらあきれたように言う。
「当たり前だろ。ジルヴァの言う通り時間がないんだ。次行こう、次」
「はいはい」
俺たちは今出来るだけ冒険者ギルドの依頼をこなしている最中。リミットはギルドの受付が終わるまで。
なんでこんなことをしてるかっていうと、話は三日前に遡る。
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