プロローグ

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プロローグ

「じゃあ行ってきますね」  王都ラリエット教会の前。  空は曇って今にも雨が降り出しそうだし、風も強いし、旅の出発の日としてはなんか不穏な朝。見送る面々もどこか不安そうな面持(おもも)ちで、旅立つアルミラだけが笑っていた。 「アルミラ、気をつけて」  マリアンナ様がアルミラをそっと抱きしめた後、名残惜しそうに(ほお)に手を当てる。 「おか……いえ、マリアンナ様。行ってきます。お役に立てるよう、がんばってきます」  アルミラは拳を握り力強く答えたけど、別に役になんて立ってこなくてもいい。危なくなったら逃げてくれってのがここにいるみんなの本音だろう。ちなみに『ここにいるみんな』ってのは王都ラリエット教会教徒たちとマリアンナ様とロアと俺。俺らは見送る側で、アルミラが旅立つ側。  そう、今回の旅は俺は一緒に行かない。 「アルミラ、無事を祈る。何かあればこの紙を聖なる火で燃やせ」  ロアがアルミラに小さな紙切れを手渡す。アルミラは紙を受け取り、開いて首を傾げた。 「魔法文字……?」  小さな紙には何か書かれているけど、読めないみたいだ。 「ああ。(まじな)いだ」 「わかりました。何が書かれているか、道中で解読してみますね。ありがとうございます」  アルミラは紙を折りたたむと大事そうにローブのポケットにしまった。  俺はロアを見上げた。相変わらずの無表情でただ(にら)んでるだけ。何を考えてるのか全然表情に出ない。 「アルミラー。もう行くぞい」  アルミラと旅を共にするラシール教会のジジイたちが馬車から降りてアルミラを呼びに来た。  杖をついたジジイ三兄弟。  一見ヨボヨボのこのジジイたち、ラシール教会ではただの世話の焼けるジジイだけど、ラリエット教会では高位の僧侶として教会の聖人伝説にも名を連ねているくらい有名だ。つか教本にはかなり美化した人物像で書かれていたから、イメージ崩さないためにラシール教会に飛ばされたのかもしれないな。 「あ、はい。お待たせしてすみませんっ」 「異国への旅なんて久しぶりじゃ。ワシらはよく目が見えんから、アルミラが一緒に来てくれると助かるのう」  ジジイが俺の肩に手を置き笑う。 「俺はアルミラじゃないよ。フィルだ。アルミラはこっち」  俺の肩に置かれた手を取り、向かいに立つアルミラに置き直す。  こんなんラシール教会じゃ日常だけど。本当に大丈夫なのか?  そう思ったのは俺だけじゃないらしく、ジジイ三兄弟を見送りの人たちが不安そうに見つめる。 「みなそう心配するでない。ワシらはこう見えて昔はアンデッドハンターなんて異名をつけられるくらいアンデッド狩りをしたもんじゃ」 「若い頃は宿に泊まるより墓地に泊まることの方が多かったのう」 「アンデッドもリッチもレイスもワシらの墓友じゃ。ひゃはははは」  ジジイたち(俺はアンデッドじじいって呼んでいる)がその場にそぐわないハイテンションで場を和めようとするけど、ただのボケじじい達のたわ言にしか聞こえない。 「アルミラ、ホントに無理するなよ。危なくなったらすぐ逃げるんだぞ」  そうは言ったものの、アルミラが自分だけ逃げてくるようなヤツじゃないことは俺が一番よく知っている。だから心配なんだけど。 「ありがとうございます、フィル。ラシール教会の高僧の方々も一緒ですし、大丈夫ですよ。では行ってきます」  そう言うとアルミラはアンデッドじじい達と馬車に乗り込んだ。  まだ日が昇って間もない王都の街は人気が少なくて馬車の音が石畳によく響く。  ラシール教会の高僧の方々って、あんなジジイたちだけじゃアテになんないよ。  はあ、俺が一緒に行けば守ってやれるのに。 「なあ、ロア。さっきアルミラに渡したやつ何?アンデッド除けの結界発動とかする魔法?」 「いや、しないな」  小さくなった馬車を見つめたままロアが答える。俺の声は聞こえてるけどあんまり頭に入ってないみたい。ロアが誰に話すともなく馬車を見ながらつぶやく。 「アンデッドか……」
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