1−7  愉快な下僕たち

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 クロスが一枚の依頼の内容が書かれた紙をテーブルに置く。 「で、ちょうどいい依頼を一つだけ見つけた。もとは商人ギルドから冒険者ギルドに協力依頼で回ってきてた護衛依頼だ。もとの商人ギルドの依頼は、さる貴族家の料理人からの依頼で、ケーキの高級材料、『ガラの良質なチョコレートの調達』。依頼ランクはD」 「その、商人ギルドの依頼はつまり、ガラに行ってそのチョコレートを買ってくればいいだけってこと?」 「そういうことだ」  なんだか簡単すぎて怖い。そんな簡単な依頼、誰でもできるんじゃないか。わざわざギルドに依頼なんて出すくらいだからなんか裏がありそう。俺と同じことを思ったのかジルヴァがクロスに質問する。 「リトッツォさんがガラのチョコレートは商人の間でも話題になってるって言ってたのに、よくそんな依頼残ってたわね。なんか裏があるんじゃない?チョコは表向きで裏で別の怪しい物運ばされるとか」 「そんな裏案件ならむしろギルドは通さないよ。依頼が残ってたのは割に合わないからさ。もとの商人ギルドの案件は簡単とはいえ、ガラに行くまでには船賃がいるし、護衛もいる。異国の言葉が話せる者でなければ通訳も雇わなければいけない。要はこの案件の報酬は諸経費込みで割に合わないから人気がないのさ。他にもガラでの買い付け案件はあったが、報酬のいい依頼は全てなくなっていた」 「なるほど」  冒険者ギルドの依頼は難易度だけで決まるからある意味単純だけど、商人ギルドの依頼はわりと複雑だな。 「で、フィルとナターシャは「商人見習い」。それからジルヴァは「武器商」で登録してきた」 「ジルヴァが武器商?」  なんでジルヴァがそんな登録になるんだ? 「あれ、言ってなかったっけ」  ジルヴァが指についたクレープのクリームを舐めながら俺を見る。 「何を?」 「ジルヴァはこの国最大武器商のババロア商会の孫娘ですよ」  ナターシャがさらっと言う。 「ん?どういうことだジルヴァは貴族の娘じゃ……」 「正確に言うと貴族の娘、武器商の孫だな」  クロスが付け足す。なんでクロスが知って……って調べたのか。  なにそれすごいお嬢様じゃん。おじいちゃんの船って武器商の船ってことか。てか色々腑に落ちた。今までジルヴァが色んな武器持ってたのは、じいちゃん家から持ち出してたんだな。 「そろそろ本日の受付終了時間です」  ギルドの受付のお姉さんの声が部屋ないに響く。やべえ、いつの間にか遅い時間になってた。クレープの行列に並んでなきゃもっと早く来れたのに。 「まずいな、今日中にギルドの登録をしておかないと、明日の船に乗るのに間に合わないぞ」 「え、クロス、依頼を受注してきてくれたんじゃないの?」 「いや、依頼を受付するのに仲間のパーティ名をどうするか聞かれて戻ってきたんだ」 「では受付を終了しまーす」  受付のお姉さんの容赦ない声。やばい。   「パーティ名なんてなんでもいいわよっ!早く登録しなきゃ。私が行ってくる!」  ジルヴァが受付に走った。頼む、間に合ってくれ。受付のお姉さんがジルヴァの話を聞く。戸惑った表情。  それからしばらくしてジルヴァがスキップしながら俺たちの元へ戻ってきた。 「なんとか滑り込みで間に合ったわよ」 「危なかったな。これで明日には出発して船に乗れるんだろ?」 「船のある港に出航時間までに着けばね」  やった。初めての船!海!異国!さあ、王都、いやこの国から出発だ。 「ところでジルヴァ。パーティ名は何にしたんですか?」  ナターシャがジルヴァに聞く。あ、そうだ。何でもいいって言ったけど一応覚えとかなきゃ。 「『孤高のチョコレートハンターと愉快な下僕たち』よ」
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