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2−2 海賊の手下
俺たちは船に乗り込む前に酒場に入った。酒場といっても、ただ酒を提供する店とは違い、交渉、待ち合わせ、手続き、荷物預かり、伝言とか色んなことに使われるらしい。
商人、騎士、冒険者、漁師、船乗り。色んな人がいてざわざわとしている。
「思ったより冒険者たちで賑わってんだな」
港街だから船乗り系の人が多いのかと思ったら、周囲を見回すと意外と冒険者らしき格好をした人たちが目についた。
「いいな、異国の依頼を受けて行くんだろうな。どんな依頼なんだろうな」
アンデッド退治じゃないのは確かだな。アンデッド退治なら教会僧侶をパーティに入れるのが必須だけど、見た感じ力自慢のパワー系の冒険者が多い。
「ああ、あの冒険者たちはおそらく海賊や海の魔獣退治専門の冒険者ですよ。王都で聞いたんですが、最近海を接する街で魔獣を使った海賊の街荒らしが横行しているそうです。それで海辺の街の護衛依頼や船の航海の護衛の依頼が急増しているんでしょう」
ナターシャが近くの掲示板に貼ってある紙を指差す。そこには『商船護衛。行き先はアジルナ王国ガラ。報酬ははずむ』とか海賊の似顔絵と賞金額が書かれたボロ紙とか、仕事依頼の紙が貼ってある。
「こういう港街ではギルドを通さずこうして裕福な商人が直接依頼を出していたりします。危険は伴いますが、冒険者ギルドを通した依頼より稼ぎはこちらの方がいいので、腕に自信のある冒険者はこちらの依頼を受けに集まってきますね」
「へええ」
関心していたら俺の後ろに立っていた男が後ろからヌッと腕を出した。無言で掲示板の紙の一枚を引きちぎり、酒場の出口に歩いて行く。ああやって受ける依頼の紙は引きちぎり、他の冒険者と依頼の受諾が被らないようにするのか。
なんかギルド通すよりこっちのやり方の方が冒険者っぽいな。
「フィル、ジルヴァが手続きをしている間に私たちは着替えましょう」
「うん」
俺は賞金首の似顔絵をもう一度見た。右目に引っかき傷がある悪そうな人相。ああいうのと戦ってボコボコにして捕まえて帰ってきたらかっこいいだろうな。でも俺は魔道士だから取っ組み合いの乱闘は苦手。倒すとしたら魔法で船ごと沈める方法を選ぶけど、それじゃ賞金首生け捕りにできないしな……。
「フィルー!」
「今いくよっ」
ナターシャが二階に続く階段から顔を覗かせ俺を呼ぶ。
船の上では魔道士のローブは動きにくいってことで、ジルヴァの商船の船乗りの服を借りることになっていた。
ナターシャの後を追って、俺は二階へ上っていった。
借りた服は船旅ってことでラフな格好。
頭には帽子代わりに布をざっくり巻き、眼帯、羽の耳飾り、生成りの大きな長袖シャツに黒いズボン、編み上げのブーツ。腰巻きに布を結び、端をだらりと下げている。ロアとアルミラからもらったネックレスを下げ、オランジェットにもらったアンクレットは靴紐に絡むので靴の中にしまった。普段着てる長いローブに比べると、はるかに動きやすい。
窓に映る自分の姿を見てちょっと複雑な心境になる。
なんか、海賊の手下っぽい。一番下っ端の。
この格好じゃ俺が教会僧侶だって言っても誰も信じてもらえないな。魔道士ともほど遠い。
「わあ、フィル、お似合いですよ」
着替えて酒場から出ると、外でナターシャが待っていた。ナターシャも清楚な格好からラフな格好に着替えていた。茶色い丈の長いシャツを腰のところで布で縛り、長いブーツの中にズボンの裾を入れている。荷物は布鞄を斜めに下げる。動きやすそう。
「まるで海賊の手下みたい。魔道士にも僧侶にも見えないですね」
それさっき俺も思った。そう、なぜか手下っぽいんだよ。海賊の船長の風格はない。服がでかいせいかな。
「これじゃ冒険者っぽくもないな。武器とか持った方がいいかな」
「んじゃ、これなんかどう?」
酒場から出てきたジルヴァが、後ろからなんか差し出す。
ジルヴァも着替えてた。袖もえりもない下着みたいな服一枚に、男物の上着を羽織り、太もも丸見えの短いスカートに長いブーツ。赤茶色の長い髪は頭の高いところで結っている。なんつーか、王都にいる時よりジルヴァらしい。そんな俺に変な形の金属を手渡してくる。これって、鉤爪?
「それを右手に持って、手は袖の中に隠す」
言われた通り持つ。眼帯に鉤爪。
「おい」
どこの船長だよ。
「うちは武器商だから武器なら船にいくらでもあるわよ。なんかいる?」
積荷置き場まで歩いてくると、ジルヴァが木箱を勝手に開ける。
いやでも俺武器の扱いは下手だしなあ。
「こんなのどう?」
ジルヴァが装飾の入った鉄を手渡してくる。重い。
「何これ?」
「ピストルよ。そこの撃鉄上げて、引き金引いてみ」
「ん?これ?」
「あっ!!!!!ちょっと待っ!!!!!」
ナターシャの止める声より、俺が引き金を引くのが早かった。
ズドンっ!!!!!!!!
地面に穴が空いた。俺は俺で撃った反動で手首が跳ね上げられ、尻餅をついた。
周りにいたいかつい船乗りたちが呆然と俺たちの方を見る。
「ね?」
「ね?じゃねえよ!!!!危ねえよ、これ!!!!」
「あんたの魔法と変わんないわよ。いる?」
いやいらない。絶対いらない。
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