2−3 ゴーフル

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2−3 ゴーフル

 船の出港時刻が迫り船に乗り込もうとした時、クロスがやってきた。 「すまん、遅くなった!」  いつもと違う軽装だけど、聖騎士だと服でわかる。その同じ服を着た若い男がもう一人、クロスの後からついてきた。 「クロス、そっちの人誰?」  クロスは騎士としては小柄な方だけど、一緒にいる男の方はわりと大柄。がっちりとした体格で隙のない佇まい。太い眉に意志の強そうな目、髪は短く日に焼けた肌。優男的なクロスとは対照的。 「こいつはゴーフル。異国に行くのに庇護者俺一人じゃ心細いから応援を頼んだんだが、どうだろう?仲間にしても構わないか?」  俺はゴーフルをまじまじと見上げた。見るからに強そうだ。こいつ魔法で倒すとしたらどうやったらいかなって考えていたら、ゴーフルがいきなり俺の目線の高さまでかがんだ。 「フィリエル様ですね?」 「えっ……」  いきなりの不意打ちに、俺の顔が凍りつく。  いや正体知られたところで俺別に何も悪いことしたわけじゃないけど。 「クロスから聞いてます。それから数々のご活躍も」  ゴーフルがいかつい顔から一転、親しげに笑う。 「人目を避けるためお姿を魔法で少年に変えていらっしゃるのですね。今度はお忍びでアンデッド退治と聞きました。ぜひご一緒させてください」  ジルヴァたちに聞こえないように小声で耳打ちしてくる。  俺があんまりにも見た目ガキなんで姿を魔法で変えてると勝手に勘違いしたらしい。  姿は変えてないし、忍んでもないしアンデッド退治でもない。チョコレート探しだよ。クロス、どんな説明して連れてきたんだろう。 「俺らの旅の目的はアンデッド退治じゃなくてチョコレート探しなんだけど」  姿のことはあえてスルーして旅の目的だけ伝えた。  下手にコソコソしてるとナターシャに怪しまれるんで、細かい説明はまた今度だ。 「チョコレート探し?」 「うん。商人ギルドで受注した貴族の料理人からの依頼。アンデッド退治はしないし、なんなら買い物ついでにアルミラと合流してガラの星祭り楽しんでこようとしてるだけ。少なくとも波乱万丈の冒険にはならないと思うよ」 「そうでしたか。いえ、それならそれで全然構いません。実はこれは内密の話しですが、アルミラ様のご様子も見てきてほしいと、さるお方からのご依頼を受けているんです」  『さるお方』で表情が緩み目が泳ぐ。マリアンナ様だな。わかりやすい。顔にめっちゃ出てる。隠し事ができないタイプだな。 「お供させてもらえますか?」  ゴーフルが片膝をつき、下命を待つような構えをする。騎士として様になってる。けど相手がかなり年下で海賊の手下みたいな格好をした俺ってのがめちゃくちゃ違和感がある。 「よ、よせって。他の仲間は俺の過去は知らないんだ。だから敬語もやめてくれ。変に思われる」  後ろを振り返るとナターシャがじっとこっちを見ていた。  俺は慌ててゴーフルの腕を引っ張った。立たせようとしたけどビクともしない。 「それを守ればご一緒してもいいのですね?」 「俺の一存じゃ決められないよ。他の仲間にも聞いて」 「わかりまし……いえ、わかった」  ゴーフルが立ち上がるとクロスと一緒にジルヴァたちに歩み寄っていった。クロスがゴーフルを紹介した後、ゴーフルが咳払いをする。 「俺はA級聖騎士のゴーフル。そしてクロスの暇な友人。やることがなくてついてきた。旅の仲間に混ぜてもらえないだろうか?」  いや、どんな挨拶の仕方だよ。やることがないって。聖騎士の信用にかかわるだろ。 「別にいいんじゃない?騎士なら大歓迎よ。それよりさっさと船に乗り込むわよ」  ジルヴァはあっさり。 「私も異論はありません。それよりゴーフルさんとフィル、お二人はどういったご関係でしょう。初対面ではないのですね」  ナターシャにはやっぱりちょっと怪しまれてた。 「いや、初対面だよ。なんか、この人昔教会に助けられたことがあって僧侶を敬うのが癖なんだって。そんなことよりジルヴァ、人数増えても平気なのか?」 「別に席があるわけじゃないから平気よ。あとで船長に話しとく」  その時、ちょうど「(いかり)をあげろー!」という船乗りの大声が響いた。 「じゃあ決まりね。私たちの紹介は船の上でするとして、行きましょ」  俺とジルヴァ、ナターシャ、クロスにゴーフル。五人で船に乗り込む。  上甲板にはいくつものロープがあって避けながら歩く。 「勝手に引っ張ったり触ったりするなよ!」  ちょうどロープに触ろうとしたら船乗りから怒られた。帆柱を見上げると、畳んでいた帆が広げられてゆく。帆の角度を変え、風を帆に受けると船はゆっくりと動きだした。  船乗りたちの間で合図や指示の怒号が飛び交う。俺は船の端にしがみつき、岸を見下ろした。  船が岸から離れてゆく。  いよいよ出港だ!
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