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2−6 回避せよ
「アンデッド船だ!!」
「望遠鏡!誰か望遠鏡を持ってこい!!」
「どうする!?やっちまうか!?」
「バカヤロウ!商品守らないと船長にぶっ殺されるぞ!!回避だ!回避!!」
「魔光弾を空に打て!」
船乗りたちが口ぐちに叫び走り回る。船の中はひっくり返ったような大騒ぎだ。でも恐怖に怯える雰囲気は少しもない。むしろアンデッドより船長の方が怖い的な声も聞こえてくる。
俺はといえば
「すっげえ……」
としか言葉が出てこない。本物だ。
俺もアンデッドじじいから話しは聞いていたけど、実物をこの目で見るのは初めてだ。
「フィル、まさか怖いのか?」
ゴーフルが聞いてくる。
「そんなわけないだろ。俺、教会育ちだぞ」
とは言いつつあいつらが泳いで船に這い上がってきたらちょっと怖い。てかキモい。しばらく一人では寝れなくなりそう。そんなこと考えてたらナターシャが俺の服の袖を掴んできた。怖くてしがみついてきたのかと思ったら。
「見ちゃった……ねえ、フィル、私見ちゃった!すごい!私、本物のアンデッド見ちゃった!まじ怖い!!」
ナターシャ、喜び方おかしくないか……?
光魔法が徐々に弱まり消えるのと入れ代わりに、船から光弾が空に向かって放たれた。
俺が放った光魔法よりもはるかに高く、広い範囲を照らす。魔力を感じるからたぶん魔光弾という魔法道具の一種だ。
でも魔光弾が照らした光の下にアンデッド船はもういなかった。
「どこだ!?どこに行った!?」
船乗りたちに焦りと混乱が広がる。
「この船は武器商の商船だからなァ。ある意味武器はたくさんある。そこらへんの海賊や魔獣と戦うのは慣れっこだが、相手はアンデッドときたか」
片足をガッと木箱の上に乗せ、左手にサーベルを持ち、右目で望遠鏡を覗き敵船を探しながら真横にいた男が言う。誰かと思ったらジェイク船長だった。
「もともと死んでる連中じゃあ戦っても得るものはなさそうだ」
望遠鏡を覗き込む口元が笑ってる。冷静なこと言ってるわりに、態度は正反対。本当は戦いたくてしょうがない感じ。ゴーフルと同類か。
「アンデット船発見!!三隻だ!!三隻に増えてやがる!一時の方向に一隻!三時の方向に二隻いるぞ!!」
帆柱の上の見張り台の男が叫ぶ。
「回避だ!!絶対に乗り込ませるなよ!!」
ジェイク船長の怒号と共にぐらりと船が大きく揺れた。
「うわっ」
足元が滑り、転びそうになったところをゴーフルに腕をつかまれた。
「フィル、ナターシャ、一度下に戻ろう」
腕を引っ張るゴーフルを見上げると、ナターシャがもう肩に担ぎ上げられていた。その目は好戦的。
俺とナターシャを安全な船室に押し込めといて、アンデッドが乗り込んできたら戦うつもりだな。
クロスから聞いた話だと、ゴーフルは兵士から戦績を上げて聖騎士になった成り上がりらしい。戦いの中に存在価値を見出すタイプ。未知の敵に遭遇したら怖がるより興奮する、ある意味変態系とのこと。
「おい、こら、ゴーフル離せって」
ゴーフルの手を振り解こうと足掻いていたら上甲板の真ん中の方に人が集まっていた。
「おい、何があった?あいつらはなんだ?」
中甲板に降りる手前で、ゴーフルが通り過ぎる船乗りに聞く。
「船が護衛のために雇った冒険者パーティだ!手漕ぎ舟を出してアンデッド船を引きつけさせるらしい」
船乗りが駆け抜けざまに教えてくれる。
「なかなか無茶な役回りだな。あんな小さな小舟でアンデッド船三隻を相手させるつもりか」
「この商船がどんな冒険者パーティを雇ったかによりますね。こういう時のための護衛ですから。ただアンデッド船を相手にするとまでは予想していなかったでしょう。その中に僧侶職の人がいればいいのですが……」
ナターシャがゴーフルに担がれた体制のまま真面目に答える。
「あいつらが牽制に失敗したらこの船はどうなる?」
そんなナターシャに俺が聞く。
「わかりません。船に乗り込んでくるかも」
ええ……、それは嫌だ。アンデット自体は一体一体は弱いけど、問題は数だ。あんなのといちいち戦っても無益な消耗戦だ。海の上だから逃げ場はないし、下手したら
「そのままアンデッドたちに海の底へ引きずりこまれるかもしれません」
俺が頭ん中で考えた最悪の結末とナターシャが最後に結んだ言葉が奇しくも一致。
「準備はいいか!?では幸運を祈る!!」
小舟が海に下されていく。舟は二隻。一隻に乗っているのは四、五人。対海賊か魔獣戦用の冒険者が集まってるとしてもな。
うーん。
アンデッド船はこの船ほどじゃないけどわりと大きい。あれに乗ってるのが十体くらいってことはないよな。
アンデッドは自然発生もするけど、黒魔術士が操るのがほとんどだってアンデッドじじいが言ってた。自然発生したアンデッドがみんなで船に乗って出航するわけないし。いずれにしろ……
「ゆっくりだ!ゆっくり舟を降ろせ!!」
「その舟、待った!俺も乗る!」
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