2−6 回避せよ

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 俺はゴーフルの腕を振り払い飛び出した。 「フィル!?」  言っておくけど俺はゴーフルみたいな戦闘狂じゃない。魔道士は近接戦より遠距離戦の方が得意だから、離れてるうちになんとかしたいだけ。あいつらにこの船に乗り込まれたくないし。 「なんだ、お前は!ガキは危ないから下がってろ!」 「あんたらだけじゃ無理だ」 「ガキが何を言って……」 「フィル!」  クロスが駆けつけてきた。 「クロス、この船に俺以外に僧侶はいない。本船にアンデッドが乗り込んだらもう手がつけられないぞ。その前に俺がなんとかするよ」 「策はあるのか?」 「策っていうか、魔法で一掃するしかないけど。広範囲魔法を使う。クロスはこの船に残って俺の魔法の範囲の外に出てくれ」  普通、こんなガキのいうことなんて信じやしない。でもクロスは俺の過去の実績とか知ってるから。 「わかった。やってみよう」  即答した。 「さっきパルシファーに上空からアンデッド船の動きを見てもらってたが、どうもアンデッド船は一定海域に近づく船を警戒しているみたいだ。(おとり)で撹乱すれば本船は逃がせると思っていた」  話しが早いのはクロスはクロスで状況見てたからか。  そしてこういう時はやっぱり聖騎士の肩書きが物を言う。  クロスはここぞとばかりに聖騎士オーラを発揮し、その場で声高にアンデット船の動きと、その回避策を説明した。船乗りたちの注目と期待がクロスに集まる。  リトッツォさんが言っていたように、教会の祝福を受けた聖騎士への信望が厚いのだろう。 「船長に話してくる」 「そういや、ジルヴァは?」 「船長のところだ。アンデッドを生捕りしたいとさっき船長にせがんでいた」  そう言うとクロスは船長に話しをつけにいった。ジェイク船長もさっき戦っても何の得もないって言っていた。アンデッドの生捕りよりは、回避の策の方に耳を貸してくれるだろう。 「どうなっても知らねえぞ!!ガキ!乗れ!!」  離れた所からジェイク船長のゴーサインの合図が出ると小舟のリーダーが俺に向かって怒鳴る。その言葉に俺は舟に飛び乗った。代わりにその舟に乗るはずだった冒険者たちが下された。『(おと)り』の船だ。速さが求められる。余計な重荷は不要。 「あれ、お前は確か昨日の魔法のガキか。まあいい、俺の名はグラッセ、こっちがロン」  小舟のリーダーをよく見たら昨日、帆柱の見張り台に俺を呼んで腰を抜かした男だった。もう一人の船乗りがぺこりと頭を下げる。 「昨日はどうも。俺はフィル」  本船からは次々と魔光弾が空に発射され空に光の玉がいくつも浮く。 「アンデット船、見つけました!速度が速い!このままだと追いつかれます!」  見張り台の男が叫ぶ。 小舟が下され海面に着水するとすぐに小さな帆を張り本船から離れる。 「ロン!もっと早く本船から離れろ!!」 「やってるよ!!」  こちらの舟にはグラッセとロン、俺の三人だけ。俺も何か手伝おうかとオールを手にしたらグラッセに怒鳴られた。 「おい、フィル!!お前アンデッドに詳しい教会の僧侶なんだってな。策があるからお前の言うことに従えって聖騎士様が言ってたがこのまま進んでいいのか!?」   怒られたのかと思ったら違った。  海の上だと声が通らないから怒鳴る話し方が普通になってるみたいだ。 「うん。どんどんその警戒してる海域に突っ込んで行ってくれ」  そうは言っても小さな帆で無尽に暴れる風を捉えるのにロンが苦労していた。  オールを使って手伝ったところで何も役に立ちそうにない。 「本当に大丈夫なんだろうな?さすがに俺たちも三隻のアンデッド船に囲まれたら……」  ロンが不安げに俺を見るから 「囲ませればいい」  俺はそう答えて風魔法を使った。そろそろ本気を出そう。 「うわっ」  ロープを持ったロンが慌てる。船が大きく揺れて海に投げ出されそうになった。 「おい、ロンしっかりしろ!」 「な、なんだっ、今の風は」  あ、間違えた。  シュトーレンに行く移動手段としてドラゴンの背に乗った時に、ロアが使った風魔法を思い出す。  一時的な突風じゃなくて川のような大きな流れる風。そんな風の流れを作るとロンが風をつかみ舟が安定した。  帆に風を受け、小さい帆ながら舟の速度がどんどん上がる。風の操り方と帆を操る操縦者との息が合えば小回りがききそうだ。 「コツがつかめてきたぞ」 「おいまさかこの風……お前の魔法か……?」 「ああ、俺ラリエット教会の僧侶だから」 「ラリエット教会の僧侶っていえばエリート魔法使いじゃねえか。こいつあ、期待できるな……って、昨日は魔道士だとか言ってなかったか?」 「教会僧侶出身の魔道士なんだ」  自分でもどう名乗ればいいのか混乱してきた。魔道士って言ったり僧侶って言ったり。本当はラシール教会の僧侶だけどこっちはほぼ無名だからラリエット教会の僧侶って名乗ってみたり。 「教会僧侶出身の魔道士。はっ、フィリエル様に影響されたってやつか。最近若い僧侶に多いそうだな」    グラッセが笑う。  影響ってか、本人だけどな。 「本船を追っていたアンデッド船二隻、こっちに向かってきたぞ!」  ロンが叫ぶ。  見るともう一隻もこちらを追いかけてきた。この海域にはそんなに大事なものがあんのか?まあいい。何があろうが俺らには関係ない。無事にガラにつければいいんだ。
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