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嵐はやみ星は隠れ、そして世界は終わる
民思いの慈悲深い王が亡くなった。
国の発展のために尽力した大魔道士も亡くなった。
そして嵐が来た。
嵐は三日三晩荒れ狂い、家を農地を築き上げた何もかもを破壊した。
王女は絶望に打ちひしがれていた。
荒れた街と海を見晴らす王宮のバルコニーに一人佇み王女は遠くを見ていた。
その後ろ姿に、誰もかける言葉がみつからない。もうこの国は終わりだと、誰もが思っていた。
「何もかも失いました。私たちに残されたのは絶望だけ」
王女が後ろから歩み寄ってきた男につぶやく。
「人が住みにくいこの土地で、魔法を使って頑張ってきましたが、所詮は魔獣さえ寄り付かない荒廃した土地。たった一つの嵐で一瞬にして何もかもなくなりました……。偉大な魔法と知恵を持った大魔道士様ももういない。その大魔道士様を招き国を民を護ってきた王もいない。この国は、もう終わりです……」
王女は男を見上げた。王女の眼から涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「そんなことはございません、王女様。この国にはまだ王女様がいる。そして王女様を支える宮廷魔道士もいる。この国の発展はこれからです。空を見上げてください、王女様。星が降るように美しい夜です」
王女は空を見上げた。男の言う通り、空には無数の星が輝いていた。
「この日から一年ごとに祭りをしましょう。この国の発展と栄華を祝う祭りを。その祭りのために一年、また一年とがんばりましょう。祭りは年を追うごとに華やかに盛大になり、進歩を実感してまたがんばっていける」
「でも……」
「大丈夫、きっと乗り越えていけます」
男は微笑み、王女様に小さな四角い箱を差し出す。
「では私が宮廷魔道士として王女様の元気が出るものを差し上げましょう。これはとっておきの魔法が詰まったこの最高傑作です。どうぞ開けてみてください」
王女様が小箱の蓋を開けると、そこには丸い艶やかなチョコレートケーキが入っていた。
「これは……?」
「先日、友好国になったカカマス国と交易を交わすことになりました。小さな島国ですが、その島国から仕入れたチョコレートでケーキを焼いてみました。金粉を散らしたらまるでこの夜空のようでしょう?名付けて『至福のチョコレートケーキ』。夜の美しいガラにふさわしい」
「アローシュ……」
「その国から船を造る技術も教えてもらえることになりました。大地がダメなら海に出ましょう。作物が育たないのなら、色々な国と交易しここを拠点に物が流通するようにすればいい。幸いこの国は魔獣に襲われたことがありません。海路も一定の海域さえ入らなければ比較的安全です。いつかこのガラの街は世界中の商人が集まる街になる」
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