3−1 魔法道具研究者

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3−1 魔法道具研究者

 ゆっくりまぶたを開けると知らない天井が目に入った。  なんか夢を見ていた気がするけど思い出せない。  えーと、確か俺は小舟から海の中に落ちたんじゃなかったっけ……?ってことはここは海の中?  ……んなわけない!  がばっと起き上がると、隣りでガタンッと何かが落ちる音。 「うわっ!びっくりした!」  横を向くと知らない男がひっくり返っていた。寝グセだらけの黒髪に眼鏡をかけていたが、尻もちをついた拍子に眼鏡がずれて片耳だけでぶら下がっていた。 「きゅ、急に目を覚ますから驚いたよ」  男がひっくり返ったままの姿勢で俺を見上げる。色白でひょろっとしたお兄さんはどう見ても船乗りとはほど遠いし、ここは船の中っぽくもないから本船に助け出されたわけじゃなさそうだ。 「ここ……どこ?」  見回すと狭い石作りの部屋。家具は大きな机と椅子と俺が寝ているベッドだけ。机の上には本とか瓶とか紙とか変な道具とか散らかっている。  まるで記憶喪失の人みたいな発言だけど、記憶がおぼろげに蘇る。  えーと、舟から落ちたんだよな、俺。んで、水魔法使おうと考えてたら背中から鷲掴みされてすごい勢いで引き上げられてその時めちゃくちゃ水飲んで、それから記憶がない。 「ここは灯台。と言っても今は使われていない古い灯台だけどね」  男がずれた眼鏡を直しながら立ち上がる。背が高くてひょろっとした感じ。ボサボサの髪を後ろで結び、くたびれた服を着た男は年寄りみたいにゆっくりとした動作で長いローブの裾を払う。  服装からして俺と同じ魔道士かな。 「灯台?」 「そう。陸から少し離れた小島にある……」  男が説明しようとした時、自分自身に目を落として俺は気づいた。  あれ!?服!服が違う!着てきた服じゃない! 「俺の服は?持ち物は!?」  慌てて男に食い下がる。 「えっ、えっ……?」 「服はどうでもいいんだ!それより装飾品!あれは人に貰った大事な物なんだ!」  ロアに貰った耳飾りと指輪、アルミラに貰ったサフレイア、それからオランジェットにもらったアンクレット。 どれも高値で売れる。盗られたら二度と戻ってこない……! 「落ち着いて。ゆっくりちゃんと確認してくれるかな。服は濡れていたから今乾かしているけど、装飾品は触っていないよ。耳飾り、首飾り、それから足首の飾り。それ以外に紛失してるものある?もしかしたら海に落ちた時に無くしたかもしれないから、そうすると探しに行かなきゃいけないね」  男は考えながら話すせいか、話しがのろい。  俺は慌てて着せられた服の襟をぐいと広げる。サフレイアのネックレス、そのネックレスに通したロアから昔もらった指輪。服の裾をまくると足が二本。右足にはちゃんとオランジェットが作ってくれたアンクレット。耳飾りもちゃんとついていた。 「はあーー、よかった。ごめん、服が大きくて見えなかっただけだった」  思いっきり力が抜けた。とりあえず安心した。失くしたかと思った……。   めったにへこむことなんてないけど、これだけは失くしたらへこむ。 「足りないものはないかい?」 「……うん、大丈夫。それよりお兄さんが助けてくれたの?」 「溺れる君を、というなら違うかな。助けたのは魔獣だよ。大きな鳥の。港が騒がしくてね。何かあったのかと思って外に出てみたら、魔獣が飛んできて驚いたよ。それで君を置いて飛んで行っちゃって……」  こうして介抱してくれてたわけか。そっか、あの時海の中から俺を引き上げてくれたのはパルシファーか。 「濡れた服を乾かそうと思って脱がした時に装飾品も外そうとも思ったんだけどね。でもその眼帯とアンクレットは治癒系の魔法がかかっているみたいだし、他のも外さない方がいいかなと思って」  よくよく見ると部屋の隅に俺が着ていたジルヴァから借りた服が干してあった。普段着ているローブとか僧侶服じゃないから気づかなかった。 「というかその装飾品、すごいね。魔法道具としてどれも一流だ。特にその耳飾りとか、人族が作ったものとは思えないな……実に興味深い」 「ああ、これね。貰ったんだ。エル……」  エルフ族から、とは言わない方がいいって前にアルミラに注意されたっけ。エルフ族の魔法装飾品は国宝級の高値がつくことがあるから盗られるかもって。盗難防止魔法はかけてるけど、その魔法を破ってでも盗む価値があるらしい。この人は助けてくれた人だから悪い人じゃないとは思うけど。 「師匠から」 「ほう」  男が顔を近づけ、まじまじと俺の右耳を見てくる。 「そ、それより助けてくれてありがとう。俺はフィル。アジルナ国に商船で入国する予定だったんだけど、色々あって海に投げ出されちゃって」 「あ、自己紹介がまだだったね。僕はアローシュ。魔法錬金術と魔法道具の研究をしているんだ。お茶とか……出した方がいいのかな。あ、僕の言葉聞き取れてる?」  そういえばここ違う国だって忘れてた。言葉がたどたどしいって思ったけど、それは俺の国の言語使ってくれてるからか。 「そういやさっき小島……って言った?ここ島なの?」 「ああ、うん。ガレント岬の先の小さな島さ。古くからある灯台なんけど、大嵐が来た時に壊れちゃって今はもう使われてないんだ。外を見てもらった方が早いかな」  
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