3−1 魔法道具研究者

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 アローシュさんについて部屋を出て螺旋(らせん)の階段を上る。大きな見晴らし台に出ると視界がぐんと拓けた。  真っ暗な空に星がたくさんきらめいていて、その下に海が広がっている。絶えず穏やかな波の音がして潮風がやわらかい。  エルフの里に行く時、トゥーレ村の屋根の上から見た夜空も綺麗だったけど、また違う美しさがある。  振り返ると後ろは陸。陸から細長く突き出た先にこの灯台がぽつりとある。 「外で魔獣の鳴き声が聞こえて、外に出てみたら海が燃えていて驚いたよ。でもその海の火もすぐに消えたんだけどね。君はあの火にびっくりして船から落ちたのかな?」 「う、うん。そう……かな」  てかその火魔法を放ったのは俺なんだけど余計なこと言うのはよそう。 「君が倒れていたのは、この灯台のすぐ下だね」  アローシュさんが灯台のすぐ下を指差す。  灯台は岬の突端に立っていて、真下は海。  灯台にアローシュさんがいなかったら俺、凍え死んでたんじゃないかな。 「あんな広範囲の海の上に火を走らせるなんてどうやったんだろうね。この国は魔法の国と言われているけど、ほとんどの人は生活魔法が少し使えるだけなんだ。あんな高度な魔法は初めて見たな。魔法道具……いや闇の魔導士かな。あるいは異国の僧侶……」  目を陸に向けると、湾の湾曲に沿って明かりが見えた。星の明かりよりもずっと明るい街の明かり。それを見てほっとした。湾には大小の船も停泊している。 「それよりさ、あの街の明かりってアジルナ国のガラの街?」 「そうだよ」 「良かった。俺だけ違う国に漂着してたらどうしようかと思った」 「ガラに知り合いがいるのかい?」 「うん。同じ船に乗ってきた仲間がいる」 「だとしたら急いが方がいいな」 「急ぐ?」 「ああ。もしすぐに仲間と合流したいなら今すぐここを出た方がいい。見てごらん」  アローシュさんが指し示した方向を見た。  この灯台崩れの建物のある小島から細い一本の道が陸まで続いている。 「今は陸続きに見えるけど、ここは普段は島なんだ。この小島は大潮のほんのわずかな時だけ陸とつながる。今がちょうどその大潮だ。朝を待っていたらこの島は離れ小島になって船でしか陸に渡れなくなる。けどこの島に船はない」  え、てことは。 「だからもしすぐに仲間と合流したいなら急いで渡った方がいい。急いでないなら下で一緒にお茶でも……」 「アローシュさん、ありがとう!!俺、行くね!!」  俺は灯台の螺旋階段を駆け下りた。  のんびりしてる場合じゃない。  さっきまでいた部屋に戻ると急いで着替えた。そして灯台を飛び出ると、さっき上から見た時よりも陸に続く道が細くなっていた。海水が満ちて道がなくなりかけている。  走って陸まではたどり着いたけど、沿岸の砂浜は狭くて波が押し寄せてくる。潮が満ちたらここも海に浸かってしまう場所だろう。  えっと、ガラの街の明かりがあったのはどっちだっけ。こっちか……? 「そっちじゃない、逆だよ、逆!海岸沿いに歩いて行けば港につく。転ばないよう気をつけるんだよ」  灯台の上からアローシュさんが叫ぶのが聞こえた。 「わかった!ありがと!」  言われた通りに俺は細い砂浜を歩いた。崖を背に張り付いて歩いていると街の灯が見えない。  岬の先はもう道がなくなって島になっていた。灯台を見ると、アローシュさんが小さな明かりを灯してぐるぐる回してくれていた。  陸の沿岸沿いをしばらく歩き、大きな港の明かりが目に入るとほっとした。  港にはたくさんの船が入っていて人で賑わっていた。岸壁に腰掛け波音を聞きながら酒を飲む人影や、物売りの声、楽器を弾く人。夜なのに活気があって、どこか妖艶な雰囲気もある。  陸の奥にはひときわ大きな建物の影が見える。  なだらかな丘陵になった上にあるからよく見える。特徴的な建物の形。  大きな玉ねぎのような屋根と、四方に尖塔。他にも小さな玉ねぎ型の屋根の建物が連なってる。この国のお城だな。  さらに歩いて港に近づく。ジルヴァの商船を探した方がいいけど、船が多すぎて探せそうにないぞ……。  そう思っていたら 「フィル!!!!!」
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