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3−2 合流
突然、喧騒がかき消されるくらいに大声がしたかと思うと、今度はすごい勢いで近づいてくる足音。
目の前にものすごい形相のゴーフルが現れた。と思った瞬間、俺に向かって突進。
「生きてたか!!」
「うげっ!」
勢いを殺さないままタックルからの鮮やかなヘッドロック。心配してるってより攻撃してるよね、これ。
周囲の人が「ひいいっ!」と悲鳴を上げる。
聖騎士のローブ羽織ってなかったら俺も海賊か人型の魔獣かと思って反撃してただろうな。
「フィル、無事か!?」
続いて肩の上にパルシファーを乗せたクロスが現れた。
「ぶ、無事じゃねえ……」
ゴーフルから解放された俺は灯台にいたアローシュさんに助けてもらったことを二人に説明した。
「すぐに駆けつけられなくてすまなかったな。パルシファーがフィルを海から助けた後に俺たちの船に報告に戻って来たんだが、あの古い灯台の辺りは浅瀬になっていて大きな船じゃ近づけなかったんだ」
クロスがパルシファーを撫でると、パルシファーも気持ち良さそうに目をつむる。
「それで一度ガラに入港してから灯台に行こうと向かっていたところだったんだ」
「そっか。魔獣とはいえ人一人抱えて低空飛行するのは結構大変だっただろ。ありがとな、パルシファー」
俺もクロスの肩の上のパルシファーを撫でる。嫌がるかと思ったら撫でさせてくれた。相変わらずツンとした顔してるけど助けてくれるし撫でさせてくれるし、パルシファーが俺を仲間だと思ってくれてるのが嬉しい。
「そのアローシュという人に仲間を助けてもらったお礼しないとな」
ゴーフルが灯台の方を見る。真っ暗な灯台がひっそりと岬の先の島に佇んでいた。当然ながらアローシュさんの姿は見えない。
「今行くのは無理だよ。あの灯台がある島は大潮の時だけ陸とつながって、それがたまたま今だったんだ。潮が満ちたら小島には船で行くしかないんだって」
「じゃあ明日の朝、改めて船で行くか。ジルヴァたちも心配して待ってるしな」
クロスの話だと、ジルヴァとナターシャは宿で待ってるらしい。宿はババロア商会の船乗りたちが泊まってる宿と同じ。てか俺、はぐれるなんて思ってなかったからその宿の場所すら知らなかった。クロスたちが探しに来てくれてよかったよ。
「そういや、本船の方はクラーケンからうまく逃げ切れたんだな」
港から街に入りメイン通りを歩く。メイン通りは王宮に続く大通りで一つしかないけど、それだけに人が密集していて距離が近いから人の判別がしにくい。クロスたちの背が高いから、上を向いて話しをしていないと、いつの間にか違う人について行きそうだ。
「ああ、クラーケンの縄張り近くでたくさんの魔光弾を使ったり海に魔法を放ったりしたから怒ったらしい。小舟を本船に回収してから全力で逃げたな。さすがにあんな化け物は相手にできない。ゴーフルは泳いでフィルを探してくると言い張ったが止めた。泳げない騎士が飛び込むよりパルシファーの方が確実だったからな」
泳げないのに海に飛び込もうとしたのか?
美談っぽいけどそれ迷惑。ゴーフルの方を見上げると
「いやあ、気合いでどうにかなるかと」
頭を掻きながら豪快に笑った。気合って。 一瞬、凄まじい形相で泳いで迫ってくるゴーフルを想像した。
魔獣より怖え。
「それにしてもフィルの魔法には驚いたな。俺はアンデッド船を魔法で引きつけてくれると助かると思ってたんだが。まさか一掃するとは思わなかった」
クロスが言う。
「アンデッド船を操ってるやつの注意を俺に引き付けろって意味じゃなかったの?だからわざわざ目立つように派手な魔法にしたんだけど」
「アンデッド船を操っているやつ?」
「アンデッドは勝手に船出しないだろ。しかもあんな船団で。あれはどう見ても自然発生したやつらじゃない。ネクロマンサーとか黒魔術士とかいうやつらが裏で糸引いてる。アルミラたちが退治しようとしてるアンデッドも同じやつが操ってるなら、地道に探すより誘き出した方が早いだろ。アンデッドを片っ端から退治したところで、黒幕やっつけなきゃまたどんどん出てくるんだから」
あれだけ派手にアンデッドを屠った僧侶が入国したとなれば、黒幕は俺を放っておかないだろう。もともとガラに着いたらアルミラとも合流するつもりでいたし、さっさとアンデッド騒ぎは片付けてアルミラと遊びたい。
クロスとゴーフルが顔を見合わせ、ぽかんとした顔をする。
「あ。いや……そこまでは考えてなかったな……」
「さすが大賢者だ!チョコレート探しはやはり表向きの名目でアンデッドを一掃するつもりだったんだな!」
ゴーフルが鼻息荒く喜ぶ。いやだから違うって。
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