3−3 ガラの朝

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3−3 ガラの朝

 朝、ガラの宿屋で目を覚ました。  昨夜というか数時間前に宿に着いて、寝てすぐに夜が明けた。めちゃくちゃ眠い。  目を擦りながら部屋を出て、一つ下の階の広い部屋に入った。ここは応接間的な宿泊者共有部屋。昨夜、宿に着いた時はここで船乗りたちが酒を飲んで盛り上がっていたけど、今は誰もいない。上で寝てるんだろう。  この宿は三階建ての三階部分が宿泊部屋で、ナターシャとジルヴァの二人部屋と俺とクロスとゴーフルで借りた四人部屋。それ以外の部屋はババロア商会の船乗りたちが泊まってるから、ほぼババロア商会の貸切りなんだそうだ。  窓を開け外を見渡すと、潮風と共に昨夜見たのとはまるで印象が違う綺麗な街並みが飛び込んできた。  街の建物の壁は全部真っ白で、ドアと窓枠だけが鮮やかな青色。建物の形はそれぞれ違うのに、街全体が白い壁と青いドアで統一されている。街の向こうは青い空と海。建物の出窓に飾られた赤い花が一層鮮やかに朝日に映えていた。  エキゾチックで妖艶な夜の街の雰囲気とは打って変わって朝のガラは爽やかだ。 「フィル、おはよう。早いんですね。もう少しゆっくり寝ていたらいいのに」  誰かと思って振り返ると、ナターシャが部屋に入ってきた。 「俺もそうしたいんだけど。教会のジジイどもの早起きの習慣が移っちゃって」  というのは建前。昨夜、異国の街並みや交わす言葉を目の当たりにしてワクワクして眠れなかったってのが本音。 「もう身体は大丈夫ですか?」 「大丈夫も何も、どこもなんともないし」  昨日の夜、みんなに遅れて宿に着いたら、すごい心配されてて恥ずかしい思いをした。  俺が小舟に移って火魔法使ったことはジルヴァとナターシャには秘密にしてたから、ただ商船の上甲板から海に落ちた可哀想な子扱い。海に落ちたのも泳げないのも事実だけど。 『あんたねえ!入国前にいきなり単独行動しないでよ!』  ってジルヴァには怒られるし 『ジルヴァ、フィルが海に落ちたのは事故で単独行動とは言わないわ。山奥の教会育ちですもの、海が珍しかったのよ』  ってナターシャから同情されるし、完全に痛い子扱い。アンデット船やクラーケンにびびって船から落ちたと思われてないだけマシだけど。  溺れたことはなかったことにして話題を変えよう。 「昨日の夜、宿までこの下の大通り歩いてきた時さ、真夜中だってのにすごい賑やかだったんだよ。あれ夢だったのかなって思うくらい、今は静かだな」  あの陽気な人たちはどこに行ったんだろう。人で埋め尽くされていた道は、今は広々と見える。 「ふふっ。ガラの星降り祭りの期間はみんな一晩中起きて騒いで、朝とお昼は寝ているんですよ」 「ふーん」  そうか。やっぱり祭りの本番は夜か。  とはいえせっかくここまで来て日中ずっと寝るのはもったいない気がするんだよな。 「ん?てことはみんな朝ごはんは食べないのか?」 「そうですね。夜にたくさん食べますから。朝から開いてるお店はほとんどないですよ」  俺は窓から下を見下ろした。ちょうど真下にババロア商会が武器の店を広げているのが見えた。  宿から出入りしているのはババロア商会の船乗りたち。船乗りたちは星降り祭りの間中ここに滞在し、夜には街に仮店を作って商売をするらしい。  船乗りから一転、商人へ。ジェイク船長も船長服から店長服へ。  見渡せば街中の店という店が飾り付けをしている。つっても商品を売る店のほとんどは即席で大通りに作った市場の仮店。ガラにあるちゃんとした建屋のほとんどは異国から来る商人たちが泊まる宿か酒場。  通りに面した仮店はみんな木材と帆の枠組みだけど、天井の布の内側にロープを()わせ、そこに商品を吊り下げたり店前に商品を溢れんばかりに飾ったり、何の店か一目で分かる。    銀食器のお店に、鮮やかな絹織物のお店、アンティークのランプのお店や装飾短剣のお店、ティーセットのお店、アクセサリーのお店、他にも珍しい石を売る店。  鍋とか服とか生活必需品だったダルトンの市に対し、ガラの市は貴族や王族やコレクターが喜びそうなものが多いなって印象。 「市場が開くのは日没後。決まりがあるわけではないですが、昼間ウロウロしてるのは、どの商品を買うか下見の人ですね。ガラの夜は魔法がかかったように煌びやかで、気分が高揚してついつい色んな買って散財してしまう人が多いんですって」 「確かに夜の街は独特の雰囲気だったもんな。でも朝もこんなに綺麗なのに有名なのは夜だけなんだな」  朝日に映える白い壁と真っ青に塗られた窓枠や扉の街並みもずごく綺麗だ。遠く港に船が並ぶ風景も、その先の青い海も空も爽やかな風も。昼間だけでも人気出そうなのに。 「街の建物をこんな風に色を統一して塗ったのはほんの最近なんだそうですよ。ガラは年々、人がたくさん集まるほどに賑やかに綺麗になっていっているそうです。いつかこのガラの朝の街並みの風景も有名になるでしょうね」  すぐ隣りに来たナターシャも窓の外を覗く。    俺は窓からさらに頭を突き出し、海の方を見る。  
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