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3−4 無人教会
俺とゴーフルとナターシャは支度をすると、宿の前でクロスたちと別れ街の奥に向かって歩きだした。
港から街の奥へ続く大通りは街の西南にあるお城へと続き、突き当たりが城門。教会は街の東南に位置するらしい。
「まずは城に向かって歩き、途中から道を逸れて行けばいいな。ちなみに……あの変わった建物がガラ城で間違いないな?」
ゴーフルが額に手を当て遠くお城を仰ぎ見る。他にそられしき建物はないんだけど、俺らが知ってるお城とは形があまりにも違うから確認したくなる気持ちはわかる。
「ええ、間違いないです」
ナターシャが答える。
お城は丘の上に立っているから港から見た時も一際目立っていた。青い玉ねぎのような型の屋根が特徴的で、その屋根と扉は青色、壁は真っ白に塗られている。王宮の敷地の四方に立つ尖塔も白い。
「変わった屋根だよな。なんで青い玉ねぎ乗せてんだろ」
「た、玉ねぎではないです、フィル。あれは聖なる蒼い炎の形を現しているんですよ。美しいお城でしょう。ちなみに私たちエシーレ国でお城は王城と呼びますが、この国では王宮と呼ぶのが一般的だそうです」
お城が美しいといえばシュトーレンも白い建物だったけど、全然雰囲気は違う。向こうは古都で、ガラはどちらかというと建物が新しいし、日差しもシュトーレンより明るい。
「聖なる蒼い炎か」
ゴーフルが俺を意味ありげに見下ろす。
アンデッド船を焼き払うのに使ったのも青い炎だったな、と言いたげだ。
僧侶が使う精霊魔法は高温になるほど青い。海の上でアンデッドを葬るために純度の高い聖火を使ったから青くなっただけ。この国のお城の屋根と関係があるなんて俺が知るわけがない。あれは偶然だよ、と目で訴える。
「なるほど、高尚なお方だ」
何をどう解釈したらそういう返事になるんだよ。ゴーフルはうんうん頷き勝手に納得している。
意思の疎通は諦め、歩いていく。
少し歩いて大通りの道から外れて東南に向かう。大通りから離れれば離れるほど建物と建物の間隔は開き、閑散としてきた。
今のところ開いてる店も見かけないし、ガラの街の人はマジで朝昼は寝てるんだな。
「腹減ったなあ」
「お腹空きましたね」
「俺もだ」
三人とも朝飯を食べていない。てか俺は昨日の夜も何も食べずに寝た。
こんな時アルミラがいたらサンドイッチとか作って用意してくれてるんだけどな。
「教会に着いたらなんかあるかな」
ナターシャに聞く。教会にサンじいみたいな社交的なじじいがいるといいんだけど。
「お茶は出していただけると思いますが、食べ物はどうでしょう。こちらから催促するのも厚かましいですし」
確かにな。同じ教会の同胞とはいえ、初対面で食べ物ねだるとか無理だよな。
街の中心からさらに離れていくと、郊外に出た。整地も舗装もされてない道には小石がゴロゴロと転がっている。乾いた土で雑草さえ枯れている。そんな荒れた土地に、ぽつんと一つの建物が立っていた。
「あれかな……いやまさかな」
「いえ、ここがガラの教会ですよ、フィル」
こじんまりした石造りの建物の屋根はドーム型。すぐ隣りに尖塔があるけど、上の方は崩れている。壁に描かれていた模様は剥げ落ち、ヒビの入った丸い窓は曇っている。王宮や街が綺麗に改修して色も統一して塗りなおされているのに対して、この教会は廃墟並みにボロい。
俺は呆然と教会を見上げた。
正直、ここまでボロいとは想像していなかった。俺らの国の教会は質素ではあるけど、廃れてはいない。
この国は……信仰がないのかな。それとも俺らの国の教会支部が立派なだけで、他の国の教会支部ってこんなもんなのかな。
「朝の教会にもかかわらず、人が誰もいないな……」
ゴーフルが辺りを見回す。王都のラリエット教会には、朝からお祈りにたくさんの人が来てるからな。
「夜、お祈りに来る習慣なのか?」
「いえ、この国では教会の信仰はあまりなくて……とりあえず中に行ってみましょうか」
ナターシャが俺たちの前に出て先頭を歩き、教会のアーチ型の扉を開けた。
中に入っても礼拝堂には誰もいない。さらに部屋の奥へとナターシャが入っていく。
「誰かいますか?」
異様なくらいの静けさ。いや教会は静かな所だけど。なんか様子が変。
「礼拝に来る人がいないのはともかく、教会に誰もいないというのはおかしいわ」
ナターシャが深刻な顔をして俺たちの所に戻ってきた。
「当番の人が寝坊とかしてんじゃないか?」
いつも寝坊してじいちゃんに怒られる俺みたいなやつが当番なのかも。
ラシール教会とかラリエット教会はすぐ近くに寝泊まりする僧院があるけど、ここは違うみたいだし。
「アルミラたちがこの教会の僧侶に招かれたとして、泊まる場所はどこかな。そこに誰かいないか?」
「今回の依頼は支部からでしたが、こういった国をまたいでの依頼は王家にも話を通しているはずです。そうなると、王宮の客として招かれてる可能性がありますね」
後ろに立っているゴーフルを見上げると、ゴーフルもうなずいた。
「行ってみるか」
ゴーフルと一緒でよかった。聖騎士のゴーフルがいれば話しを聞いてくれるだろう。俺とナターシャだけじゃたぶん門前払いだ。
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