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1−2 回想① はじまりはチョコレート
三日前のこと。
王都ラリエット教会に、アジルナ王国の教会支部から協力の依頼が届いた。その内容というのが
『アンデッド退治』
アジルナ王国は海と荒野と魔法の国。
その荒野の中にある村でアンデッドが発生したらしい。原因は不明。
んで、ラリエット教会からラシール教会にアンデッド退治の協力依頼の連絡が来て、ネリルじいちゃんとアルミラとアンデッドじじい三兄弟が王都に呼ばれた。ちなみに俺は呼ばれなかったんだけど勝手についてきた。
今朝アルミラの出発を見送った後、俺は教会を出てジルヴァと待ち合わせ……いや、ジルヴァに呼び出された。
呼び出された場所は王都東地区の大人気クレープ店の前。
最近、王都でブリュレクレープが大流行していて、東地区を歩く女の人はみんなクレープを片手に持っている。その店の行列に並びながら
「で、なんでそのアンデッド退治にアルミラだけが選抜メンバーに選ばれてフィルは選ばれなかったわけ?」
ジルヴァがド直球に聞いてくる。
「アルミラが指名されたわけじゃないよ。ラシール教会にアンデッド退治専門のじじいがいて、協力要請を受けたのはそのじじいたち」
ラシール教会にはじじいがたくさんいるけど、そのほとんどはラリエット教会から移ってきたじじいで、高等魔法が使える僧侶も多い。つかラリエット教会のじいちゃんたちの引退後の養護老人ホームがラシール教会。だから本来ならラシール教会にいるじいちゃんたちは現役を引退してんだけど。
「アンデッド退治専門の僧侶はそうそういないんだって。アンデッド自体、俺たちの国では見かけなくなったし」
俺も教会で育てられたけど実際にアンデッドを見たことはない。
「アルミラはそのアンデッド退治じじいの世話役での同行。あと若い僧侶が異国の同朋とも交流できるいい機会だからっていうんで選ばれたんだ」
「アルミラは礼儀正しいし、よその国に出しても恥ずかしくないものね」
「まるで俺じゃ恥ずかしいみたいに聞こえるぞ、ジルヴァ」
「恥ずかしいってより問題起こしそうなのよね、フィルは。転移魔法陣とか描いて帰ってきそうって思われてそう」
わ、笑えないこと言うなジルヴァ。
この前、シュトーレンにサンじいを連れていったことで街は大騒ぎになった。んで転移魔法陣描いてたことがバレて、ネリルじいちゃんに大目玉をくらった。
本来なら破門でもおかしくないんだけど、そこはサンじいが取り成してくれた。つかそもそも俺は教会でずっと眠ってることになってるしな。なんの罰もなくてやったぜって思ってたら、今回の一行から外された。お前は眠ってることになってるからって……。
「アンデッド退治に有利なのは教会僧侶で、浄化魔法や光魔法は有効だって言われてる。だからまさにアルミラが適任だったんだ。アルミラは勤勉で魔力もあるし、将来を期待されてる。今回の旅の同行はあくまで見聞を広げるためだから、アルミラが危ないことをさせられることはないよ」
気休めでもなんでもなくて本当にそうだと思う。エルフの里にも行ったし、これを機に多くを見て学ばせてってことなんだろう。
「フィルがアンデッド退治に参加しない理由はだいたいわかったわ。要するに日頃の行いが悪かったのね」
全然、人の話し聞いてねえなジルヴァ。当たってるけれども。
「まあそんなことはどうでもいいのよ。呼び出した本題話すわね」
ジルヴァがにやりと笑う。
「私たちもアジルナ王国に行かない?」
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