3−5 ガラ城の宮廷魔道士

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 カルソネスに案内され、王宮の敷地の中へ入って俺たちは驚いた。    敷地の中は緑が多くて、花壇や噴水、ベンチがあり人々が談笑している。王宮の兵士も所々に立っているけど、庭にいる人のほとんどは服装からして街の人っぽい。  母親が赤子を抱いてあやしてたり、おばあさんとかがお茶してくつろいでいたり。庭の端の方では学校みたいに子供達が先生らしき大人になんか教わってる。 「驚かれたでしょう。ここは民の憩いの場になっているんです。ガラの居住証明書さえあれば誰でもここまでは入れるんですよ」  カルソネスが俺たちが不思議そうにしていることに気づいて説明する。 「色々な国の人が来るガラの街で暮らすには、自国の読み書きだけではやっていけませんからね。最近では文字の読み書きや計算だけでなく学問や魔法を教える学校のようなものも王宮で開いています」  自己流で異国の言葉を覚えるのは大変だもんな。てか、なんで教会に誰も人が集まっていないのかわかった。街の人はここに集まっているからだ。 「憩いの場ですか……。失礼ですが、これだけ自由に王宮に出入りできてしまっては王宮によからぬ意図を持ったものも簡単に侵入できてしまうのでは?」  ゴーフルがカルソネスに聞く。聖騎士の立場らしい質問だ。 「街には多くの人々がいるように見えるかもしれませんが、ガラに集う人々の九割が異国からの商人や貴族、あるいは旅人です。ガラの、いえこの国の人口はそう多くはないのですよ。この国は不毛の地。作物が育ちにくい上、魚介もそれほど多くは取れません。それでも人口の少なさからなんとかやってこれたのですが」  カルソネスが空を見上げる。 「五年前、我々の国は度重なる災難が降りかかり国は滅亡寸前になりました。王族だ平民だなどとは言ってられないくらいの絶望を我々は共有し、そして乗り越えてきたのです。共に苦難を乗り越えた絆は深い。そう私は信じています。民が王家に反乱など起こすはずがないとたかを(くく)っているわけではありません。王宮はこの国が生き残るためにはなんでもしてきた。これからも民の信頼は裏切らないし、きっと民も我々の信頼を裏切ることはないでしょう」  カルソネスが庭に視線を向け目を細める。  国が滅亡寸前だったという言葉からは想像もつかないほど、庭の人々の表情は穏やかで平和に満ちていた。 「おっと、少し話しが外れましたね。貴方が聞いたいのは精神論ではなく、物理的な王宮内の治安維持についてですね。我々はあなた方の国のような武力は持ち合わせていません。代わりに古来より続く魔法によってこの王宮を守っています。兵士以外にも、長いローブを着たツバの広い帽子を被った者たちがいるでしょう?あれは宮廷守護魔道士。あなた方の国でいう聖騎士や護衛兵としての役割を担っています。彼らはあらゆる事態に対処できるよう、特別な訓練を受けさせています」  カルソネスが宮殿の扉の前に立つと、扉から魔力を感じた。  扉は鉄でできていて重そう。大男二人くらいで開けそうな扉が、ゴゴゴと音を立てながら勝手に開いた。 「ああ、これは魔法道具です。特定の者の魔力に反応し開きます」  ゴーフルが(いぶ)しげに扉の裏を覗きながら中に入る。誰か後ろから引っ張ってないか確認してた。  移動というより散歩のように宮殿内の回廊を歩く。円柱には花や草が彫り刻まれ、建物側の壁側にはズラリと鎧が並んでいる。人は中に入ってないけど、いつでも魔法で動き出しそう。  廊下の向こうから露出の多い踊り子の女の人たちが笑いながら歩いてくる。 「来客をもてなす宮廷の踊り子たちです。もとは街の娘ですが。今は星降り祭りですからね。宮殿にも来客が多い」  踊り子とすれ違う時には投げキッスをされた。クロスがいたらスマートに投げ返してそう。俺とゴーフルはどうしていいかわからずうつむいたけど。 「お祭りといい踊り子といい、王様は派手好きなんだな」 「フ、フィル!」  ここが他国の王宮だってことを忘れて、ついいつもの軽口が出た。ナターシャに袖を引かれ注意される。 「いえ、いいんですよ。先ほど少し申しましたが、王は五年前急逝しましてね。今、王国を治めているのは王女です」  そういえばさっきたくさん災いが続いた、みたいなこと言ってたっけ。王も大魔道士も亡くなった、ってのもどこかで聞いた。  カルソネスが一際大きな部屋の扉の前で足を止めた。 「聖騎士様はこちらの客間へどうぞ。お連れの方は隣りの別室でお待ちください」  あれ?俺らも一緒に入っちゃだめなのか?  カルソネスは近くにいた従者に俺たちを隣り部屋に案内するように指示し、ゴーフルは促されるままに部屋に入っていった。 「まるで俺らは子供扱いだな」 「あの宮廷魔道士様はたぶん私たちをゴーフルの従者か何かと勘違いしたのかもしれません。年の差もありますし、聖騎士の仲間には見えなかったのでしょう」  ナターシャが俺をガン見しながら言う。俺が見た目子供っぽいからだって言いたげだ。言っとくけど俺の方が年上だぞ。口に出しては言えないけど。
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