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3−6 占い師サヴァラン
宮殿から出た俺たちは庭を歩いた。
カルソネスから従者に案内させるという申し出もあったけど、丁重に断った。王宮内を自由に歩いてもいいならそっちの方がいい。
「教会の教徒たちは確かに王宮に泊まっているらしい。ただしあの宮殿の中ではなく、来客用に作った別邸だそうだ。あそこに見える建物がそうだな」
ゴーフルが庭の先の建物を指し示す。宮殿よりは小さいけれど立派な建物だ。
「あそこにアルミラたちがいるんだな」
「いや、それが……教会教徒たちはこの国の教会門徒と共に朝早くから調査に出かけたそうだ」
「どこに行ったか聞いていないのか?」
ゴーフルが首を振る。
「カルソネス氏が言うには、アンデッドの件はガラの教会がラリエット教会に救援を依頼したのであって、王宮からの依頼ではないから行動に干渉はしないのが筋だ。ただし王宮としては求められれば助力は惜しまない、と」
「カルソネス様は素晴らしい方ね」
「ああ。若いのに芯がある」
ゴーフルとナターシャはカルソネスを高く買ってるけど、良く言えば寛大、悪く言えばただの放置じゃねえか?
そんな話しをしているうちにアルミラたちが泊まっているという建物の前に着いた。
鉄串みたいな門があって、その向こうに前庭があり建物はその奥。建物の前には護衛兵が立っている。
「とにかく、アンデッド船の件について伝言だけでも残して帰りましょう。それから私たちの宿の場所と。フィル、アルミラに伝えておくことはありますか?」
「サンドイッチ食いたい」
「もう、親友への伝言がそれですか?」
「だって腹減ったんだもん。俺もう腹減って動けないからここで待ってる。アルミラがいないなら行ってもしょうがないしさ。伝言残すって言ったって、俺こっちの国の言葉わかんないし」
「まったくもう。では私はあの建物の前にいる方に言伝をお願いしてきますね」
ナターシャが鉄串の門を開け奥へと走ってゆく。と、同時に「きゃあ」という小さな悲鳴が遠くで聞こえた。見ると芝生の向こうで、女の人が果実を道にばら撒いていた。慌てて女の人がしゃがんで拾い始めるけど、果実は転がって女の人から遠のいていく。
動くのは怠い。魔法使っていい国なら魔法で拾うの手伝おうかなと思ったら、ゴーフルが俺の肩に手を置いた。
「ちょっと手伝ってくる。二人いなくなるとナターシャが戻ってきた時に困る。すぐ戻るからフィルはここで待っていてくれ」
そう言うとゴーフルは女の人の所に駆け寄って行き、果物を拾う手伝いを始めた。
俺は近くにあったベンチに座った。
あー、疲れた。どっと疲労が押し寄せる。
芝生は広々として花壇の花もよく手入れがされている。笑い声も聞こえるし、のどかな庭だ。
……と、いいたいところだけどなんかずっと違和感を感じてる。
宮殿で緊張するようなタイプじゃないんだけど、その変な違和感のせいでずっと気がぬけなかった。妙な魔力の気配がずっと漂っているっていうか……。魔法と魔法道具の魔力が複雑に絡み合いすぎて酔いそう。
「お腹空いてるの?」
そう、腹が減ってんだ俺。昨日の昼からなんにも食べてな……、ん?
顔を上げる。黒いレースの服を着た女の子が俺を覗き込んでいた。知り合いではない。でもどこかで会ったことがあるような気がする。返事の仕方に迷っていると、女の子が腕に抱えた紙袋から何かを取り出し、俺に差し出した。
「よかったら、これ食べる?」
差し出されたものは板のチョコレート。
「えっと……」
「チョコレートケーキ作ろうと思って買ってきたの。今は買い物の帰り。君、昨日の夜に街で見かけたわ。もしかして旅行者?こんなところでどうしたの?」
女の子が微笑んだ。褐色の肌に黒くて大きな瞳が、人懐っこく俺の目を覗きこむ。
ガラの人は社交性の高いってナターシャから聞いてたけど、見たことあるってだけで話しかけてくるんだな。
「えっと俺は旅行者で……知り合いを待ってるんだ」
「そっか、てっきりスリにあってお金がなくてお腹が空いてるのかと思った」
「まあ、スリにあったのも腹が減ってるのも間違ってはいないけど。それ買うお金は今持ってないよ」
女の子が不思議そうな顔をする。
「物売りだろ?観光地には親切そうに食べ物くれて、それ食べたらお金を要求される。そういう人がいるって聞いたことがある」
「ふふっ、ああ、そういうこと。これは売り物じゃないわ。さっき言ったように買い物帰りよ。私の名前はサヴァラン。商人じゃなくて占い師よ」
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