3−7 荒野の廃村 ダネス

2/3
前へ
/72ページ
次へ
「フィル、フィル!着きましたよっ」  肩を揺さぶられて目が覚める。目が覚めて自分が寝ていたことに気づいた。 「大丈夫ですか?」  ナターシャが俺の顔を覗き込んでくる。砂漠トカゲが地面に伏せていて、みんなトカゲから降りていた。俺も鞍から降りて伸びをする。 「うーん。痛てててて。なんでかな、肩と頭が痛い」 「ああ、それは二度ほど寝ぼけてトカゲの背から落ちたせいですね。一応、治癒魔法で治しましたけど」  そうなんだ。全然、記憶にない。てか寝てたっていうより気を失ってたんじゃないか、俺。  見回すと岩と砂だらけの荒涼とした景色。真後ろに遠くガラの街が砂に霞んで見えた。  眼前には石と木でできた村。  遺跡というにはまだ新しく、人が暮らしていると思えるほどの生活感はない。ただただ寂しく風化するのを待つ村、そんな感じだ。 「ここがダネス村?」 「ええ。砂漠トカゲの商人の話では、五年前まではここで暮らしていた人がいたそうです」 「五年前まで?わりと最近だな」 「もともとこの辺りは痩せた土地で、過疎化した村だったそうです。五年前の嵐で壊滅的な被害を受けたのが廃村の決定打になったみたいですね。亡くなった方は埋葬し、生き残った方はみんなガラに移り住んだので今はもう誰も……」 「それがここ最近になってアンデッドが出現。なんで今頃って感じだよな。やっぱ誰かに操られてんじゃないかな」  村は魔獣除け石を積み上げ覆われている。その石の壁もほとんどが崩れていた。村の入り口から中を覗き込んでみる。魔力の気配はない。 「誰かに?王宮への反乱を企てる者がいるってことですか?でもカルソネスさんの話では民と王家の絆は固いと」  そのカルソネスが怪しいって俺は思ってるんだけど、ナターシャはカルソネスを信用しきっててまったく疑ってない。てかさ、アンデッド船に乗ってたあれだけの人数操るって相当な魔力のある魔道士なんだよな。だとするとやっぱ宮廷魔道士が怪しいじゃん。そう思うじゃん、普通。  ひゅうひゅうと砂の風が強くなってきた。 「あれ?そういやナターシャ、ゴーフルはどこいった?」 「フィルを頼む、自分はちょっと中を調査してくると言って村に入って行きましたよ」  俺が一人で行くって言ったはずなのに。あの聖騎士、全然人の話し聞かないな。もともとは俺がここの村に行くって言ったんだぞ。  砂漠トカゲの商人を村の外に待たせ、石壁に沿って歩いてみたものの何もない。  朽ちた家、枯れた井戸、無人の村。   「何もありませんね」  はあー……。  おかしい。  やっぱりおかしい。  歩くほどに身体が重い。  空腹で体力消耗してんのかと思ったけど、疲れてるのは俺だけ。なんでだ? 「フィル?」 「え?ああ、そうだな。アルミラたちもいないな。どこに行ったんだろ。そういえば、亡くなった村人は埋葬されたって言ってたよな。そこは?」 「ああ、それならたぶん向こうです。商人さんが、村を挟んで入り口と反対側に共同墓地があったはずだと言っていましたから」 「ふうん、じゃあ俺はそこに行ってみる。ナターシャはここで……」 「フィル!早く行きますよ!」  いつの間にか先を歩いていたナターシャが手招きしていた。……もう色々と諦めた。  石壁に沿って歩いていくと、村の外れに柵で覆われた畑のような土地に着いた。柵の中は石が等間隔に並べられている。たぶん墓石だろう。  ざっと見、五十石くらい?お墓といっても、ただの綺麗に並べられた石。文字も何も刻まれていない、花も飾られていない。枯れた木が一本立っているだけ。風と砂に吹かれた寂しい所だ。 「ここがお墓……だとしたら変だな」 「なぜです?」 「だってアンデッドってここから蘇ったんだろ?それにしてはキレイじゃないか、土が。もっと掘り起こされた感じにならないかな」  俺が想像してたのは、夜中に地中からボコッと手を突き上げ土の底から這い上がってくるアンデッドたち。村の中でのたれ死んだままになってたわけじゃない。村人はみんな『埋葬された』んだろ。 「確かに変ですね。この村の死体が蘇ったのではないとしたら他から来たことになりますね」 「他から来たって……どこから来てどこに行ったんだよ。てか、この村に発生したアンデッドはそもそもどうしたんだ?燃やしちゃったのかな」  燃やしたといえば、俺が聖なる火でもれなく火葬した船に乗ってたアンデッドたち。あいつらもどこから来たんだろう。 「それはもしかしたら……。いえ、でもそんな……」  ナターシャが顎に手を当て考え込んだ。何か心当たりがあるらしい。  俺はナターシャの考察を待ってその場に座り込んだ。  待てよ。俺らはアンデッドを探しに来たわけじゃないんだった。アルミラが見つかればいいんだ。だとしたらアルミラの魔力を探る方法はないかな?  エルフの里でアルミラからもらったサフレイアのネックレスを服の上に出す。青くて綺麗な石。それを首から外し、片手に持った。  俺は立ち上がると腕を伸ばし、ぶらぶらとサフレイアを揺らしながら歩く。ダウジング、なんてな。鉱脈探しならともかくこれじゃアルミラの魔力は……って  ズザアアっ。 「えっ!フィルっ!?」
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加