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何かにつまずいて派手に転んだ。
ほんっとツイてないな!この国に来て以来!!
「どうした!?何があった!魔獣か!?」
剣を抜いたゴーフルがすごい勢いで村の中から駆けてきた。
「ゴーフル!フィルが何かに襲われてます!」
ナターシャが起き上がる俺を指差す。
マジ痛い。鼻打った。
「フィル!魔獣はどこだ!?」
剣を構えたゴーフルが俺の目の前に一瞬でたどりつき、背に庇いながら周囲を警戒する。
「いや、魔獣じゃないよ」
「アンデッドか!?」
「違う。何かにつまずいて転んだ」
「こ、転んだ……?」
ゴーフルが険しい顔のまま振り返る。
「ダウジングでアルミラ探そうとしたらさ、何かにつまずいたんだ」
ゴーフルがナターシャを見る。
「私はてっきり土の中から魔獣に襲われたのかと……」
「フィル……」
二人が脱力し、俺を冷めた目で見る。
悪かったな。てか転んだだけなのに勝手に大騒ぎしたんだろ。
俺は鼻を押さえながら地面を見た。平べったくて四角い大きな石が砂に隠れていた。これにつまずいたらしい。
「ん?それは墓の残骸か。それにしては大きいな」
ゴーフルが石をまじまじと見る。石板のように加工された石。石棺の蓋か、あるいは石で作ったテーブルで足がなくなったやつか。
「砂でよく見えないが、何か絵が彫ってあるな。あと文字も」
しゃがみこんでゴーフルが手で石の砂を払いのける。平たく加工された石の表面に、確かに何かの文字と絵が彫られていた。
「ナターシャ、これなんて書いてあるかわかる……」
ゴーフルが言いかけたその時。
俺の足首に何かが巻きついたかと思ったら、勢いよく真後ろに引っ張られた。
当然、転ぶよね。顔面から転ぶの本日二度目。
「フィル!!」
「ナターシャ、離れていろ!!」
俺を助けようと手を伸ばしたナターシャの腕をゴーフルが取り、後方へと引き離す。
俺よりナターシャの安全を優先したのはいい判断だ。
ズルズルと引きずられながら身を翻すと、目の前にはさっきの枯れた木が迫っていた。ただの枯木だと思ってたのに、こいつ魔樹だったのか!
さっきまで魔力を感じなかったけど、今は木全体から禍々しい魔力を発している。
えっと、こいつは確か……
「食人樹のイビルウッドです!フィル!」
俺が思い出すよりナターシャの方が早かった。
枯れてるから気づかなかったけど、瘴気の濃い森の中で群生しているのを見たことがある。
魔樹は生き物ののように根っこをうねうね動かし、葉っぱが一枚もない尖った枝で獲物の俺を突き刺す気満々。
「足、引っぱんなっつうの!」
枯れた木が相手なら、火魔法で焼き払うまで。
「木炭にしてやるっ!」
樹木めがけて特大火魔法を放つ。
……ってあれっ?思ったように魔法が発動しない。勢いよく放ったはずの火魔法は、火力が弱くて魔樹の幹まで届かなかった。
やべえっ、枝の射程距離に入っちまう。
足に絡む根っこを外そうともがいていると、先の尖った枝が俺の胸目掛けて迫ってくる。
腕で防げるか!?致命傷を避けるため腕で咄嗟に身体を庇う。一撃で絶命しなければ治癒魔法で……
「させるかあああ!!!!」
叫びながらゴーフルが俺の前に立ちはだかり剣で枝を切り捨てた。
「うおおおおおおお!!!!!」
ゴーフルが剣を振り回すたび、次々と襲いかかってきた枝が断ち切られていく。魔樹の攻撃が怯んだ。その隙に引いて体制を立て直すかと思ったら、ゴーフルはさらに魔樹本体に向かって踏み込み、斧でも振るうように剣で幹に切りかかった。
「とどめだっ!!!!」
魔樹が斜め上から振り下ろされた剣に切断される。枯れた樹木とはいえ、剣で伐るのは相当な腕力だ。
木がビキビキと音を立て倒れ、生き物のように動いていた根が動かなくなった。
俺の足に絡んでいた根も緩まり簡単に外れた。
「フィル、怪我はないか」
剣を肩に担ぎゴーフルが格好良く振り返る。
怪我はないけど、ゴーフルの大声で鼓膜が破れるかと思ったよ。
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