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3−8 迷宮カタコンベ
「フィル、大丈夫でしたか」
倒れた魔樹の残骸にナターシャが近づき幹や根を観察し始めた。
「え、ああ……」
大丈夫じゃないかも。この至近距離で俺が魔樹の魔力に気づかなかったなんて。
「イビルウッドはDランクの魔物の樹木ですから、さすがにフィルだけじゃ敵わないわね」
いや、こんなやつエルフの里に行くときに出くわしたベヒーモスに比べたら全然弱い。魔法の調子が悪いっていってもな……。
調子が悪いといえば、ずっとロアに貰った羽の耳飾りがリンリンうるさい。警告、ってことなんだろうけど、ずっと鳴り続けてたら意味ないじゃないか。何を警戒すりゃいいんだよ。
「ゴーフル、助けてくれてありがとう」
立ち上がってゴーフルのところに行く。
「いや、あれくらい。俺が手助けしなくてもフィルの魔法なら一撃だっただろう」
「……うん。普段ならそうなんだけどさ」
今回は助けてくれてなかったらちょっと本気でやばかったかも。
「ナターシャの前であまり魔法を使うと正体がバレかねないしな」
ゴーフルが身を屈めて俺の耳に顔を近づけ小声で言う。
力をセーブしたつもりはない。自分でもよくわからないけど、いつもと調子が違うってのだけはわかる。
俺はゴーフルの肩に両手を重ねてかざした。魔樹の枝が肩をかすめたらしく、少し血が出ていた。魔力を集中し治癒魔法を発動する。
「フィル、これくらいなら治さなくても大丈夫だ」
「いや、俺今回、足引っ張ってばっかで何の役にも立ってないから」
……って、あれ?
俺は自分の手をじっと見つめた。治癒魔法は確かに発動している。ゴーフルの肩の切り傷も癒えていく。でも。
「さすがだな。詠唱なしで治癒魔法も自在に使えるなんて」
俺の魔法を見ていたゴーフルが感心する。
いやそうじゃなくてさ。なんか治癒魔法の効力が弱い。得意じゃないとはいえ、いつもら一瞬で治せるはずなのに。
「ありがとう、フィル。おかげで治った」
ゴーフルが上機嫌でぶんぶん腕を振り回す。
「二人とも、ちょっとこれを見てください」
遠くでナターシャが四つん這いになって地面に顔が付くほど近づけていた。いつの間にか魔樹の所から、俺がさっきつまずいて転んだ平たい石の所に移動していた。
「ゴーフルさん、この石を持ち上げられますか?」
俺とゴーフルはナターシャのすぐそばに行き、平たい石を見下ろした。さっき魔樹の根っこが地表を這い回ったから、土と石の境がくっきり見える。
「石を持ち上げてどうするんだ?」
ゴーフルが聞くと
「見てください、ここ。ズレた石の隙間の下に穴が空いてます」
ナターシャが石の端を指差した。
確かに拳くらいの大きさの穴が見える。
「んー…?なんだ、井戸でも塞いだのか?」
ゴーフルが石に手を伸ばす。
井戸なら村の中にあった。枯れてたけど。
てかこの立地にあるものっていったら。
「それ、墓じゃないのか?開けたら骸骨出てくるよ」
俺の言葉に手を伸ばしかけたゴーフルの手が止まる。
「聖騎士として墓暴きはできないぞ、ナターシャ……」
「いえ、墓暴きではないです。この石の表面に削ってある文字。はっきりとは解読できませんが、神聖な場所への入り口、というようなことが書かれていますから」
神聖な場所への入り口?
ゴーフルが俺を見る。どう思う?と目で聞いてくる。
俺はゴーフルを見返し、いいんじゃないか、開けてみても。と真顔で頷く。
なんかあっても祟られるのはゴーフルだし。
ゴーフルはナターシャの横に跪くと、石の端に指を引っ掛けた。そこに力を込めると、ゴゴゴゴッっと重い音を立て石が動く。腕の力というより指の力で石を持ち上げた。すげえ怪力。
少し持ち上がった石に両手を滑り込ませ、さらに真上に持ち上げる。
「そのまま石をどかしてくださいっ」
ナターシャの言葉を合図に、ゴーフルは力いっぱい石をひっくり返した。
「うおりゃあっ!!」
ドスンっ
平たい石がひっくり変えると、そこには大人一人が入れるくらいの四角い穴が空いていた。
砂煙が引くのを待って三人で中を覗きこむ。
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