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「けっこう深い穴だな。石段があるぞ?」
「地下に続いてるみたいだな」
「やっぱりこれは……カタコンベの入り口ですね」
俺とゴーフルが同時にナターシャを見る。
カタコンベ?
「地下共同墓地のことです。この国では土葬も行われていますが、古くから地位の高い人は地下の共同墓地に埋葬する慣習があったそうです」
アンデッドが出るってことは土葬してるとは思ってたけど。地下共同墓地もあるのか。
「地下の墓地……。もしかしてアルミラたちはこの中に入って行ったのか」
「そうかもしれません」
「じゃあ俺たちも中に……」
「待ってください!」
石段に足を踏み入れようとしたら、ナターシャが勢いよく俺の服の袖を引っ張る。
「無闇に入るのは危険ですっ」
「危険……?なんで?」
「フィル、異国に行くというのに、何もこの国のこと調べてきてないんですか?」
ナターシャがあきれたように言う。
「ないよ。だって調べる暇もなかったし。船では酔ってたし」
そういや俺、旅の下調べなんかしたことない。そういうのって全部アルミラに任せてた。
「……船の中でこの国の文化について調べておいて良かったです。このカタコンベは広くて、階層も深いんです。行き止まりも多くて、出入り口は少ない地下の迷宮と言われています。専用の案内人なしに入るのは樹海に手ぶらて行くようなものなんです」
「誰がそんな墓地を作ったんだよ……」
「カタコンベ自体は大昔からあって、この国では罪を犯すと罪の重さに応じた年数を地下で労働者として働かせていたそうです。掘っているのは罪人ですから、罪の労働から逃れようと抜け道を掘る者も少なくなく、そのまま力尽きて亡くなる者もいたとか。ですからこのカタコンベの全体像を記した地図もないんだそうです」
すげえ嫌な予感するんだけど
「ナターシャ、広いって言ったけどどれくらい?」
「正確には把握されていませんが、少なくともガラの街の倍以上……階層も三層以上です」
「もしかしてアンデッドってこの地下に眠っているやつらだったりして?」
「考えたくもありませんが……そうかもしれません。いえ、この村の墓地から発生したわけじゃないとなると、きっとそうなのでしょう」
さっきナターシャが考え込んでたのはそれか。だとしたらヤバくないか?俺はてっきり村一つ分くらい、多くても五十体くらいのアンデッドだと思ってた。
「このカタコンベは大昔からあるって言ったな。だとすると、数えきれないほどのアンデッドがいるのでは……?」
ゴーフルが一番肝心で、でも答えを聞くのが怖い質問をする。そう、問題はカタコンベの広さよりアンデッドの数。
ナターシャは答えに迷って口をつぐんだ。否定する材料がみつからないんだな。
ラリエット教会で、じいちゃんたちが何であんな真剣に話してたのかがわかった。
このカタコンベにどれだけのアンデッドがいるのか予想もつかないなんて。
これはもう……国の危機だ。
国を超えて助けを求めるわけだ。
「どうする?」
ゴーフルが俺を見る。
「フィル、引き返しましょう。私たちが行っても足手まといはおろか、合流することもできず迷うだけです」
ナターシャも俺の決断を待つ。
「……じゃあ」
俺は顔を上げゴーフルとナターシャを交互に真っ直ぐ見た。
「俺一人で行く」
「えっ!?」
「フィル!?今の話し聞いてましたか?」
「聞いてたよ。三人で行くのは危険だ。だから俺一人で行く。二人はこの入り口に居てくれ。この入り口塞がれたら出れない。かといってナターシャ一人置いてくわけにもいかない。またさっきみたいな魔樹とか魔獣が出るかもしれないからな。だからゴーフルはここにナターシャと残って、俺が行く。それが最善だろ」
「そんなの無茶です……」
無茶だけど、アルミラは行ったんだ。ラリエット教会の僧侶として、異国であっても助けに応じるために。そんなアルミラを置いて引き返すことはしたくない。てか、できない。
「大丈夫、俺は探索魔法使えるし」
俺は空を見上げた。日はとっくに真上を通過している。
「このままグダグダ考えてても時間が過ぎるだけだ。二人が反対しても俺は行くよ、アルミラのところに。アルミラは俺にとってかけがえのない仲間で、一緒に暮らす家族でもあるんだ」
死なばもろともってやつ。
二人の顔は見ずに俺は石段を降り始めた。
強引でもなんでも行く。自分勝手といわれようと、わがままと言われようと。
すると
「必ず!一時間で戻って来い!戻ってこなかったら後を追う!」
「何かあったらすぐ合図してください!助けに行きますから!」
ゴーフルとナターシャの力強い声が背を打つ。
「わかった!」
二人に見送られ、俺は地下へと降りていった。
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