1−2 回想① はじまりはチョコレート

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 えーと……。一瞬思考が止まる。 「いつ?何しに?」 「明日よ。ガラの星降り祭りに行きたいのよ」 「明日!?いやさすがにそれは無理だろ。ジルヴァ、アジルナ王国って海の向こうの国だぞ」  俺だって行けるものならこっそりアルミラについて行こうと思った。でも船で行くっていうから諦めたんだ。てか星降り祭りって何。 「知ってるわよ。実はね、うちのおじいちゃんが商船持ってて、その商船が明日アジルナ王国の港街、ガラに向けて出港するの。ガラには前に一度連れていってもらったことがあるけど、そりゃあもう楽しい街なのよ。今ちょうどお祭りの時期でね。チョコレートケーキが忘れられなかったからまた行きたいと思ってたのよね。んで、どうせ行くならフィルたちと冒険の旅で行こうと思って誘いに来たってわけ」  なんか支離滅裂でよくわからんけど、アンデッドとかとは関係なく、その星降り祭りに行きたいってことだな。しかも船の切符はある。 「アルミラが行った先もたぶん同じところよ。アジルナ王国はほとんどガラにしか人住んでないから。向こうでアルミラとも合流してガラの星降り祭りを楽しみ……じゃなくて冒険者らしい旅しましょ」 「冒険者らしい旅……」    そういうことなら悪くない。てか行きたい。異国のお祭り。船にも乗ってみたい。 「それにガラのチョコレートで作ったチョコケーキは食べたら幸せになれるって、全世界の女性の間で有名なんだから」 「チョコレートケーキ?港街なのに?」  全世界の女性が知ってるってなんでジルヴァが知ってるのかはさて置き、港街なのになんでチョコレートなんだ。もっと他にありそうだけど。 「アジルナ国はつい数年前までは貧しい国だったんだけど、造船技術を手に入れて以来、交易で一気に栄えたの。その最初の交易国の特産品がカカオで、異国の商人にチョコレートを売るうちにその美味しさが広まって発展したって有名な逸話よ。チョコレートが民を幸せにしたって。ロマンチックでしょ」  ジルヴァが思い出に浸りうっとりとする。 「ロマンチックは俺興味ないけど、チョコレートケーキうまそうだな」 「私は前に三日で100個食べたわ」 「食い過ぎだろっ!」  思わず大きな声で突っ込んだら前に並ぶ人に白い目で見られた。 「でもさ、アジルナ王国ってさっき話したようにアルミラたちがアンデッド退治に行った国だぞ。アンデッドが出るかもしれないのに祭りなんてやるのかな」 「仮に出たとしてもアンデッドって一体一体は弱いんでしょ?そんなの怖いわけないじゃない。それより年に一度の祭りの方が大事よ」  普通、アンデッドって聞いたらもっと怖がらないか?グロいし気味悪いし。でもまあ……アルミラにも会えるかもしれないし、星降り祭りもチョコレートケーキも悪くない。 「乗り気じゃないの?」 「そんなことないよ。行きたい。行きたいけど異国だろ?俺、たぶんじいちゃんの許可出ない」 「それって教会僧侶として許可してくれないってことでしょ?冒険者として行くならいけるんじゃない?家出は得意でしょ」 「教会からの家出はともかく、俺たちの冒険者ランクじゃ国どころか王都からも出れないんだぞ」 「知ってるわよ。だからそこら辺の魔獣ぶっとばして急いでランク上げるの。そして明日の朝の船に乗ってガラに行く」 「きゅ、急すぎないか」 「いつもだいたいこんなノリじゃない」
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