3−10 黒豹とシャズ

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3−10 黒豹とシャズ

 俺が叫ぶのと同時にアルミラが振り返った。けどもう遅い。アルミラは俺みたいに魔法の発動が早くない。  ゴーレムの拳がアルミラに届く直前、何かがアルミラに飛びかかった。  さっき見た黒い影!!黒い豹のような動物だけど、魔力が強い。魔獣か!?  魔獣がアルミラを突き飛ばし、その直後にゴーレムの腕が空を切る。 「……ほう」  倒れたアルミラを背後に庇うように優雅に魔獣が身をしならせ歩き、動きをぴたりと止めた。 「さすがは……の弟子か」  えっ?今なんつった?魔獣がしゃべった! 「うずくまって泣いているかと思ったが」  魔獣がみるみる変形し姿を変える。  獣の形が崩れ再形成されたのは長身のダークエルフ。金色の魔法糸で刺繍された黒い服に褐色肌がのぞく。腕は太くたくましいが、たくさんのアクセサリーをした派手なエルフだ。  こいつどこかで……。  ダークエルフは片腕にはめた腕輪をいじりながら切れ長の目でゴーレムを見据える。ゴーレムの動きが止まった。さっきみたいにスリープ状態になったわけじゃなく、小刻みに震え動こうともがいている。ダークエルフが何かの魔法を使っているのは確かだ。 「悪いな。こいつは俺がもらっていく」  薄く笑うとダークエルフはアルミラの腕を掴むと転移魔法を使った。 「あっ!!待て!!」  慌てて叫ぶと、ダークエルフと目が合った。  消える直前に念話魔法を飛ばしてきた。  魔力の流れを追う。逃すか!!!!  俺も転移魔法で飛ぶ。  ダークエルフが飛んだのはさっきの場所から少し離れた別の部屋。  着地と同時に、俺もダークエルフの目の前に転移してやった。 「なっ!!??」  驚いている隙をついて至近距離から右手で風魔法を放ち、左手でアルミラの腕をつかむ。 「アルミラを返せ!!!!」 「お前は魔獣以外に魔法を使うのは禁じられてるんじゃないのか!?」  なんだ、こいつ!なんでそんなこと知ってんだ。 「だったら何だ!?アルミラを返せ!!」  こういうわけわからないヤツに誘拐されるのが一番怖いんだ。アルミラがいない間、俺がどれだけ心細い思いをしたか!アルミラと会えなくなるのだけはごめんだ!  調子が悪いとか、そんなことは今はどうでもいい。ありったけも魔力を使ってでもこいつからアルミラを取り戻してやる!  火魔法と地魔法と風魔法を同時に使う。が、ダークエルフのやつ、この至近距離でとっさに防壁魔法を張りやがった。  だったら次は連撃魔法で防壁魔法ごとぶち破ってやる!!!! 「待て待て待て待て!!!!」 「待たねえ!!!!」  近距離魔法を防ぎながら、そのままダークエルフに腕を捕まれ、一瞬で地面にねじ伏せられた。痛ってえ!! 「フィル!」  アルミラがダークエルフの背中に掴みかかった。 「お前ら頼むからおとなしくしてくれ!精霊に誓って言うが、俺はお前たちに危害を加えるつもりはない!そんなことしたらロアに殺されるからな」 「なんでロアのこと知ってんだ!」 「ロアは俺の兄だ」  ……は?今、なんつった?  地面に伏したまま頭だけ後ろに向ける。 「見ろ」ダークエルフが俺を押さえた腕と反対の手で自分の耳を引っ張る。 「同じエルフだろ?」 「肌の色も目の色も雰囲気も何もかもが全然違う!」  人族に色んな種族がいるように、エルフ族にも色んな種族がいる。耳が尖っているからってロアと同じ種族とは限らないし、ましてや兄弟とは信じられない。 「これは装飾擬態魔法だ。俺の名はガレット・デ・シャランテーズ。シャズとみなは呼ぶ。ロアからの伝言で頼まれてたんだよ。『弟子がそっちに行くから頼む。弟子に何かあれば兄弟の縁を切る』ってな」  ロアは俺らの国ではわりと有名なエルフだから、フルネームは調べりゃわかることだけど。アルミラがロアの弟子になったことは俺らしか知らない。ましてそのアルミラがこの国に行くってことも。 「あ……、そういえばロア師匠から困ったことがあったらこれを使えって……。これがもしかしてあなたへの連絡……?」  アルミラが紙切れを取り出す。 「おうよ。ロアから前に手紙で人族の僧侶の子を弟子にしたってのは聞いてたからな。エシーレ国の教会の一団がくるって噂になってたし、たぶんその一団にいるんだろうって様子見してたんだ。そうしたら救難を知らせる魔法発動してるし、駆けつけて来てみりゃ地下で迷子になってゴーレムに襲われてる。助けなきゃロアに殺されるだろ」  シャズが押さえつけていた俺の背から手を離したので、俺は起きあがった。 「はあ。弟子が二人とも来るなんて聞いてなかったぜ。しかも別行動してるし。まあ何はともあれ、怪我はないか?」 「は……はい、大丈夫です」 「そっちは?」  無視。返事の代わりに思いっきり首を捻って真横を向いた。 「お前には念話魔法飛ばして説明しただろ?」 「知らん」  あ、無視しようとしたのに答えちゃった。  なんか念話魔法は飛ばしてきたのはわかったけど受け取れなかったし。
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