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「なんだ?まだ俺のこと疑ってるのか?」
「……信じろって言う方が無理がある」
こいつどこかで見たことあると思ったら、最初にガラに着いた時、踊り子の踊ってた酒場にいたやつだ。魔力があんまりにも強いから覚えてる。確かに魔力だけ見たらロアにも匹敵するかもしれないけど。
シャズが腕を組んで考える。その仕草はどこか飄々としててますますロアと兄弟なんて胡散臭い。
「そうだな……。あ、じゃあこんな話しでどうだ?お前が足につけてるそれ」
シャズが俺の足元を指差す。
「そのアンクレットはオランジェットの作ったやつだな?」
「!?」
いきなりオランジェットの名前が出るとは思わなかった。
オランジェットは幼い頃にロアに連れられエルフの里に行ってから出てないし、別の種族のエルフがあの里まで行ったとも思えない。じゃあこいつは間違いなく古代エルフ族か。動揺する俺にさらにシャズが続ける。
「その耳飾りはロアからもらったか。ガレット家の紋が入ってる。よっぽど気に入られたな。危機を知らせる風精霊の声が聞こえなかったのか?」
「風精霊の声……ずっと耳鳴りみたいにうるさくリンリン鳴ってた」
「お前ね、それじゃその耳飾りの意味ないだろ。使いこなせないなら持っていても意味ないな。他のに代えてやろうか?」
「はあ?いいよ」
「それより役に立ちそうな物と交換してやるよ。しかももっと高価なやつに」
「だからいらないって」
「なんでだ?金に困った時高く売れるぞ」
「……役に立たなくても金に困っても売らない。これはエルフの里に行ったっていう思い出なんだ」
シャズがあんぐりと口を開けて俺を見下ろす。
「お前は子供みたいなことを言うな」
次の瞬間、シャズが爆笑し出した。なんだ、こいつ。腹立つな。
「ああ、そうだよ。エルフ族から見たら子供だよ!笑いたきゃ笑えばいいだろ」
「ははは、そんなに里が気に入ったのか」
「また行くつもりだ。いつかはわかんないけど」
「かわいいヤツだな、お前。ロアが気に入るわけだ。いずれにせよ、その呪いを……」
シャズが何か言いかけた時、通路の奥から声が響いた。
「お〜い!アルミラ〜!」
聞き覚えのあるじじいの声だ。そういえばじじいたちのこと忘れてた。
「アルミラ……?そこにおるのはアルミラか!?」
通路の奥から教会のローブを着た三人のじじいが現れた。
じじい三人はラシール教会で一緒に暮らしてる仲間だ。若い頃はアンデッドや死霊退治で名を馳せたって三兄弟。
じじいたちはみんな痩せていて白髪。長いローブを着て杖をついているんだけど、暗い中で見たらアンデッドと見分けつかない。
「アルミラ、無事じゃったか……!ん?そこにおるのはフィルか?」
「老眼でよく見えん」
「たぶんそいつは死霊じゃな」
三兄弟じじいがそろって俺に杖を構える。よくこんなんで異国に出したな。まあだからアルミラが必要だったんだろうけど。
「死霊じゃないよ、俺だよ俺。じいちゃんたちこそ生きてんのか?もう死んでるのに気づいてないだけじゃないのか?」
「よく見えんが、その口の悪さはやっぱりフィルか」
口の悪さで俺だと判断するなっての。
じじいたちが杖の先にそれぞれ違う色の光を灯す。そこはバラバラなのか。
「んん?そっちのでっかいのはなんじゃ?エルフか?……あんたは確か古代エルフ。五十年前に見たことがあるのう。まあよい。それよりフィル、お前、その身体……。なんともないのかえ?」
じじいの一人が変なことを言う。なんだ?俺の身体がどうかしたのか。一応、自分の身体を見てみた。地下道を歩いて所々汚れてるけどぱっと見変なところはない。あ……服装がいつもと違うからか。
「これは借りた服だよ。俺は教会僧侶としてこっちの国に来たんじゃないんだ」
「あの、フィル。そうではなくて、僕もさっき会った時から気になっていたんですが……。その、何か術がかかっているような。それも良くないものです」
アルミラが言う。なんのことだ?術って?
「アルミラの言うとおりじゃ。黒い呪いがかかっておる」
「かかっておるな。ワシも最初は死霊かと思った」
「うん、うん。呪いじゃ。黒魔術じゃ。ほっといたら死ぬぞ」
「……え?何、どういうこと?」
じじいたちはだいたいボケたことしか言わないけど、こういう変な冗談は言わない。てか、呪い……?もしかしてずっと調子悪かったのってそのせい……?
心配そうに俺を見るアルミラと目が合う。
「呪われてるぞ、お前。耳飾りがずっと警告してただろう。その眼帯やオランジェットのアンクレットの治癒魔法が相殺して保っているせいで気づかなかったんだな。自分自身にかかっているまとわりつくような黒い魔力に」
ジャズが綺麗な長い指で俺を指差し、断言する。
まるで服の中に気持ちの悪い虫が這いずり回っていたことに気づいたような、不快な感覚。おぞましさに背筋に悪寒が走る。
身体の力が抜け、両膝を地に着いた。嘘だろ……。気持ち悪……。
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