4−1 異国の晩餐

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4−1 異国の晩餐

 目を開けると知らない天井。  誰かが俺の顔を覗き込んできた。 「フィル、よかった、目が覚めましたか」 「アルミラ……」  勢いよく起き上がって周囲を見回す。どう見ても地下の共同墓地じゃない。窓があるし、そこから日が差し込んでいるし、俺はベッドの上にいる。 「アルミラここは?地下からは抜け出せたのか?」 「落ち着いてください、フィル。カタコンベからはシャズさんの案内でゴーレムに見つかることなく地上に戻れました。ここはフィルたちが宿泊しているガラの宿です。シャズさんがフィルをここに運んでくれましたし、フィルにかかっていた呪いももう解けているので心配ないですよ」  両手のひらをじっと見つめた。変な呪いの感覚はもうない。身体も軽い。魔力の流れが明らかに違う。身体に血が通う、みたいな。 「そっか……」  あの後、俺は……呪いがかかっていると自覚した途端、気分が悪くなって気を失ったらしい。  窓の外の日は弱く傾いている。朝に宿を出て今はもう夕方。 「ジルヴァやクロスさんも一緒に来てたんですね。あ、さっきナターシャさんとゴーフルさんともお会いしました」 「ジルヴァの家の船で来たんだ。一応俺たちの旅の目的はチョコレートの買い付けなんだけど……」 「さっきナターシャさんから詳しい話しを聞きました。船で航行中にアンデッド船に遭遇して、心配になって僕らの後を追いダネス村まで来てくれたって」 「ああ、うん。ダネス村の墓場で偶然カタコンベへの入り口を見つけてさ。地下にもしかしたらアルミラたちがアンデッド調査に行ってるんじゃないかって思ったら居ても立っても居られなくて。アルミラたちはどこからカタコンベに入ったんだ?」 「僕たちはダネス村の小さな教会の祭壇の下からです。墓場にも地下への入り口があったなんて、ガラ教会の方も知らなかったそうですよ」  アルミラが言うには、ダネス村に行ったのはガラの僧侶一人とアンデッドじじい三人、そしてアルミラの五人。ガラ教会の僧侶は入り口で待機してたんだけど、異国風の格好をした俺らが普段誰も来ないはずのダネス村にいきなり来たから、驚いて隠れてたんだと。  そんで俺らが魔樹と戦ってんの見て、腰抜かして動けなくなってたらしい。 「それで調査の結果は……アンデッドの出所はやっぱあのカタコンベだったのか?」 「……おそらく。アンデッドとは遭遇しませんでしたが、かなり最近大人数が出入りした痕跡がありました」  アンデッドを操ってるやつの目的はわからないけど、あの場でアンデッドに囲まれてたらヤバかったな。 「ゴーレムに出くわした時はもう本当にダメかと思いました。まさかフィルが助けに来てくれるなんて。フィル、ありがとうございます」  アルミラが微笑む。  その顔を見てほっとした瞬間、力が抜ける。背中からベッドに倒れた。アンデッドのことはともかく……。とりあえずアルミラを無事に取り戻せて良かった。 「フィル!?」 「ああ……腹減った……俺、今朝から何も食べてないんだ」 「じゃあ下の部屋に行きましょう。みんないますし、ジルヴァが食事を買ってきてくれたそうですから」  ジルヴァに借りた服は土と埃で汚れたから、アルミラの着替えを借りた。いつも着てる教会の僧服。背丈も同じくらいだし、着慣れた服だからしっくりくる。白いローブも借りて羽織る。自分で言うのもなんだけど、やっぱ俺こっちの方が似合うな。  着替えを終えて下の階の宿泊者共用の居間に行くと、ゴーフルとナターシャ、それからジルヴァとクロスもいた。みんなが一斉に立ち上がり駆け寄ってくる。 「おおっ、フィル!心配したぞ!」  ゴーフルは駆け寄った勢いのままタックル。だから攻撃すんなって。  思わず回避魔法使いそうになった。 「フィル、無事!?呪いを受けたんでしょ?腐ってない?」  どういう心配の仕方だよ、ジルヴァ。 「うん、いつの間にか呪われてたみたい……」 「……」  ジルヴァが眉をひそめ肩を叩いてくる。 「なんだよ」 「あんた死んだことに気づいてないだけかも」  奇しくも俺がアンデッドじじいたちと会った時に言ったのと同じセリフをジルヴァに言われるとは。 「こんな元気な死人いるか」 「フレッシュなアンデッドだっているかもしれないじゃない」 「いないよ!」  なんだフレッシュなアンデッドって。 「フィル、無事で本当に良かったです。体調が悪そうだったのは呪いのせいだったのね。それで、その後呪いの影響はないんですか?」  ナターシャが心配そうに聞いてくる。てか恥ずい。昨日は海に落ちて、今日は呪いかけられて。完全にダメな子だ、俺。 「それはもう平気。アルミラに浄化魔法かけてもらったから」 「あっ、いえ、フィル。僕は回復魔法と浄化魔法だけで(のろ)解呪(かいじゅ)の魔法はアンデート司祭ですよ」 「アンデート司祭……って、誰?」 「フィルが『アンデッドじじい』と呼んでる方と言えばわかりますかね」  ああ、アンデッドじじい三兄弟か。もうどっちがあだ名かわからなくなってきた。 「あれ?そういやそのアンデッドじじいたちは?」  部屋にいるのはクロスとゴーフル、ナターシャとジルヴァだけ。他の三人のラシール教会のじじいたちもガラの僧侶もシャズも見当たらない。 「アンデート司祭たちはガラ教会の方たちと王宮に行きました。カタコンベの調査結果を報告しに。アンデッドは月のない夜に活動しやすいそうですが、今はちょうど月が細くて星が良く見える時期ですし……」 「街中の地面からアンデッドが吹き出すかもしれないなんてスリリングよね」  ジルヴァが真面目な顔で言う。  吹き出すて。地中から発芽のごとくアンデッドが飛び出す姿を想像した。 「一応、王宮を中心にガラの街全体に結界は張ってあるそうです。でも今の星降り祭り中のガラは夜が最も賑わいますから、もしものことがあったら街がパニックになります」 「祭りで盛り上がってんのかと思って逆に気づかないかしら」  いや気づくだろ。さっきからアルミラとジルヴァの話しが噛み合ってない。
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