4−1 異国の晩餐

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「じじいたちはわかったけど、シャズは?」  ロアと本当に兄弟かどうかはさておき、親しい間柄なのは確かみたいだし、なんかあった時は遠慮なく利用し……頼らせてもらいたい。   「彼なら自分の泊まっているところに帰るとおっしゃって僕らをこの宿に送り届けた後、行ってしまいました」 「泊まってるところは聞いた?」 「『知り合いの女性の所。あとは秘密』と。あとはフィルによろしく、と言っていました」  なんかつかみどころのないヤツだな。 「あいつアルミラのこと助けに来たって言ってたな。なんでアルミラがピンチだってわかったんだろ」 「それは……、旅の出発の時、ロア師匠から渡していただいた紙があったでしょう。あれのおかげです。僕たち実はガラに着いてすぐスリにあってしまって……どうしていいかわからず、とりあえずこの紙を燃やしてみたんです。でも何も起こらなかったので忘れていたんですが、まさかシャズさんへの救援魔法だったとは」 「ロアはちゃんと説明しないからな」  あのエルフ、時々人語理解してないんじゃないかと思う。 「あの、先程からフィルとアルミラが話している『ロア』って、ガレット伯爵のことですか?」  俺とアルミラの会話を聞いていたナターシャが腕を組んで首を傾げる。ナターシャにロアとの関係を深掘りされると面倒だな。そういや俺の正体やアルミラがマリアンナ様の血縁者だってことはナターシャには知られたくないんだけど、その辺はちゃんとアルミラには伝わってるんだろうか。  ちらりと部屋の奥の窓際でパルシファーに餌をあげているクロスを見る。でもクロスは何か考えごとをしてるみたいで、こっちの話には耳を傾けつつも俺の視線には気づかなかった。 「ええと、ちょっとした知り合いなんだ。全然、深い関係じゃないよ、ぜんっっぜん!」  顔の前で力強く手を振り否定する。ナターシャの俺を見る目が、ますます疑わしげな目つきになっていくのは気のせいか?  ちょうどその時、俺の腹が鳴った。 「そうだ朝にチョコレートをもらって以来何も食ってないから腹が減った」  ちょっと恥ずかしいけど話題わ変えるのにはいいタイミングだ。 「立ち話もなんだ、飯でも食いながら話そうじゃないか。ジルヴァが色々買ってきてくれたらしいからな!」  ゴーフルが俺とアルミラの肩に手を回し部屋の奥へと押し込む。 「あんたらがウロウロしてる間に私たちはちゃんとみんなの分のごはんも買ってきてたんだからね!」  テーブルの上に座ってつまらなさそうに話しを聞いていたジルヴァの顔が急に明るくなった。「部屋に置いてあるから取ってくるわ」 と言ってテーブルから飛び降りると、勢いよく部屋を出ていった。 「あ、じゃあ僕、お皿とフォーク借りてきますね」 「荷物運びなら俺が行こう。力仕事は任せろ」 「私も手伝います」  ジルヴァにアルミラとにゴーフルとナターシャも続いて部屋を出て行く。 「……えー、じゃあ俺も」  だるいけど俺も追いかけようとしたら部屋を出る直前にナターシャにドアを閉められた。  「すぐ戻ってくるのでアンデッド魔道士はそこで休んでてください」  変なあだ名つけるなよ。  とはいえラッキー。テーブルに近づき椅子に座った。 「ふあ〜」  テーブルに突っ伏す。 「フィル、散々だったな」  残ってたクロスが話しかけてくる。てか、俺に話があるからわざと残ったんだろ。 「うん、まあ呪いの的に狙われたのがゴーフルやナターシャじゃなくて俺でよかったよ」 「どういう意味だ?フィルは狙われたのか?」 「だってそうとしか思えないだろ。俺が呪いに耐えられたのは教会僧侶だから。教会の僧侶は祝福の加護を受けてるから呪いにはかかりにくいんだってじいちゃんから昔聞いた」  クロスが眉間にしわをよせて考える。 「いや……呪いをかけられたのはフィルだけじゃないかもしれない。日頃、祝福の加護を教会で受ける者は呪いにかかりにくいのは確かだ。そういう意味でいうと、我々聖騎士団も同じなんだ。王都聖騎士団はラリエット教会と深いつながりがある。日々、教会の祝福の加護を受けているんだ。だからゴーフルも呪いにはかかりにくい」 「じゃあナターシャは?」 「彼女は大司教の孫」  あっ!忘れていたけどそうだった。それこそ強力な祝福の加護を受けてるはず。 「じゃあ……俺は教会僧侶のくせに魔道士だから呪いにかかったってわけか」  やっぱ黒魔術的なものと魔道士は相性が悪いんだな。 「いや。そうは思えない。君は僧侶であれ魔道士であれ教会の名に(かん)されるほどの信仰を集めている。神の力は森羅万象に宿る精霊の力。人々の信仰だけじゃなく精霊の加護も強い。そんなフィルだけに呪いがかかるとは思えない……朝、俺たちと別れてから、ほんのわずかな間でもゴーフルとナターシャと離れていた時はないか?あるいは誰かから何か受け取ったとか」  誰かから何か受け取ったか。スリにはあったけど。
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