4−1 異国の晩餐

3/3
前へ
/72ページ
次へ
「何二人で話し込んでんのよ!どいてどいて!」  ジルヴァがでかい銀色の鍋テーブルを抱えて戻ってきた。その大きな鍋をテーブルのど真ん中に置く。てか鍋ごと買ってきてたのか。ジルヴァの後からゴーフルとナターシャとアルミラも色々抱えて部屋に戻ってきた。 「食べ物の市は日が沈む前から買えたのよねー。美味しそうでしょ。ところでナターシャ、これ何?」 「そのパイみたいなのはブリック。卵の包み揚げで、そっちのがタジン。私たちの国でいうキッシュね。それからそっちに並んでいるのがシャワルマ。チキンやラム肉をケールや豆と一緒に平たいパンで巻いたロールサンドですね」  ナターシャがテーブルに次々と並ぶ料理の説明をしていく。ジルヴァがその説明をふんふん言いながら聞く。いや、何かわからないで買ってきてたのか。  あっという間にテーブルに料理が並んだ。どれも俺らの国では見たことないし、嗅いだことのない匂いを漂わせている。まさに異国の晩餐て感じ。……でもなんかワクワクするってよりちょっと不安。 「じゃあいただきまーす」    ジルヴァの元気な声とともに食事が始まった。  肉とか魚の料理は臭みを消すためのスパイスをふんだんに使ってんだろうけど。この独特なスパイスの匂いが俺は苦手。  みんなが美味そうに食べ始めたけど、俺とアルミラは食事前のお祈りしながらみんなが食べるのを様子見。見た目は豪華だし腹も減ってるんだけど。  とりあえずサンドイッチっぽいロールサンドを手に取った。 「……スパイスが独特できついな。あとこれ肉も入ってる」  中身を抜いて、小麦粉で出来た皮の部分だけなら食べれそう。 「フィル、何やってんのよ。あんた好き嫌い多すぎ」  ジルヴァがラム肉にかぶりつきながら言う。肉が似合うな。 「多くないよ。食べ慣れてないものは苦手なんだよ」 「じゃあこのスープはどうです?」  ナターシャが勧めてくれた。 「なんか変な味……」 「じゃあこっちのひよこ豆のペーストならどうだ?」  ゴーフルが皿に豆のペーストを取り分けてくれる。それをスプーンでちょっとだけすくって口に入れてみた。みんなの視線が俺に集まる。  味が濃いわけじゃないけど、やっぱり独特な匂いがする。 「この上にかかったスパイスかハーブみたいなのが苦手なのかな。何にも味付けしてなかったらいいかも」  みんながガクッと肩を落とす。 「確かに独特なスパイスではありますけど……船の中での携行食より全然良いと思いますよ。フィルは普段どんなものを食べてるんです?」  ナターシャの問いに、今まで食べてきた記憶を探る。普段は食べたいものを食べるってよりは出されたものを食べるって感じだった。 「うーん、ジャガイモとか豆スープとか。だいたい味付けは塩だな。あとはパン。バターやジャムがつくと嬉しい」  なんだかみんなの俺を見る目が哀れみに変わった。 「教会の食事ってそんなに質素だったのか……」 「フィルとアルミラとは何度か食事をしたけど、確かにこいつら好き嫌い多いんだよな……」 「囚人じゃあるまいし教会とはいえもっと良いもの食べれるでしょ。やたら朝は起きるの早いし、あんたおじいちゃんみたい」  ゴーフルとクロスの感想はともかく、最後のジルヴァのはほとんど悪口だぞ。   「うっさいな!しょうがないだろ、小さい頃からじじいに囲まれて暮らしてたんだから!」   「じゃあこれはどうです?この国で有名な魚介のトマトスープ煮込みです。トマトスープがベースになってるので食べれるんじゃないですか?」  ナターシャが器にスープをよそってくれる。 「えー、俺、魚いらない」 「あんたね、肉も魚も食べないからそんなに細っこいのよっ!冒険者たるものもっとワイルドに生きなさいよ」  ジルヴァがテーブルをバンバン叩いて力説する。口に出しては言わないけど、ジルヴァは冒険者ってより海賊っぽいぞ。 「いいよ、俺、魔道士だもん。ワイルドじゃなくてミステリアス路線でいくから」  とはいえ腹は減った。昨日の昼からほとんどなんにも口にしてない。食べたのはチョコレートくらいで……。チョコレート? 「あっ……クロス!チョコレートだ!」 「ん?いや魚だよそれは」 「そうじゃなくてっ!王宮に行ったあと俺だけチョコレートもらって食べた。占い師にもらって!」 「フィル、その話し詳しく」 「えーっとだからさ、王宮に行った後、ほんの少しの間だけ俺一人になったんだ。その時女の人が話しかけてきて……ガラで占い師やってるらしいんだけど、俺が困ってそうだから声をかけたって。んで、チョコレートくれた」 「それを食べたのか?」 「うん」 「その直後、体調に異変があった?」 「すぐってわけじゃないけど。でもその人はアルミラの居場所を占いで教えてくれたんだ。それでダネス村のことがわかって、すぐに向かった」  五人がじっと俺の顔を見る。 「呪いの正体がわかったな。てことはあの占い師を探して問い詰めたらアンデッドのことも何かわかるかも」  道が(ひら)けた。のに、五人の顔が冴えない。なんでだ? 「フィル、見知らぬ土地の占い師から食べ物もらうとか怪しすぎるでしょ!少しは警戒しなさいよ!」  ジルヴァに叱られ、 「しかもそれを食べるなんて。無防備すぎです」  ナターシャには苦言を呈され、 「ダントンの冒険者ギルドで俺に会った時も簡単に俺を庇護者にしたしな……」  クロスには呆れられた。てかクロス!お前が俺をはめたんだろ!!  ゴーフルは何にも言わないけど腕組んで眉間に皺寄せてる。 「す、すみません。僕ら教会僧侶は人を信じやすくてですね、ネリル大司教からは外に出る時は気をつけるよう注意されているんですけど……でもフィルはきっとその方の親切に答えようとしただけなんです」  アルミラだけが必死にフォローしてくれようとしているのがわかる。  え、何この空気。俺が悪いの? 「と、とにかく今はご飯にしませんか。みなさんお腹空いたでしょうっ。呪いは解けて良かったですし、アンデッドの件はこの国の教会の意向を聞いてからになりますし」  アルミラが慌ててとりなす。  なんか今回の旅って、今まで俺がどれだけアルミラに甘やかされてきたかを思い知らされる旅だな。  
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加