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草陰から飛び出た黒い影にとっさに俺が風魔法を放ち、パルシファーがジルヴァを掴み空へかっさらった。
「なっなになになになにっ!!!???」
パニクるジルヴァ。パルシファーがジルヴァを掴んで飛び去ったのと、魔獣が姿を現したのと、俺が風魔法を放ったのが同時。
頭が二つある真っ黒い狼みたいな魔獣は、俺の風魔法に一瞬怯み、狙った獲物が消えて戸惑った後、赤い四つの目を俺に向けると一足に地を蹴った。
俺に狙いを定めたのなら都合がいい。ジルヴァがいなくなったから追撃で風魔法を二発放つ。つっても、刃のようになぎ払い切り裂くと森の木々まで切れちゃうから、槍のように突く。先端に威力を持たせるため岩を地魔法で硬化した。この風魔法を槍の形に見えるようにしたのがワイバーン倒した時の
「ケイン・ヴェロス!!」
やべ。思わず必殺技みたいに口走っちゃった。
風の槍が魔獣の額を貫き。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアア』
『ガアアアアアアウウウウアアアアアアア』
魔獣が二重の咆哮を上げて静止し、絶命した。
「あっぶねー。なんだったんだ、あの魔獣」
そんなに強くはないけど恐ろしく足が早かったな。俺とパルシファーがいなかったら、ジルヴァのやつ食われてたぞ。
で、そのジルヴァはどこいった?
「ちょっとお!!下ろしなさいよパルシファー!!!!」
周囲を見回すと、木の枝の上に置かれたジルヴァがパルシファーに向かって怒っていた。罵倒されるパルシファーがタジタジでかわいい。いや助けてくれたんだぞ?
「あっという間に倒したな。俺の出番はなしか」
剣を抜いたクロスが悠々と近づいてくる。
「なあクロス、ぱ……」
「パルシファーは俺の相棒だから譲れない」
はっきり早口で断られた。ちぇっ。
クロスは俺を通り過ぎジルヴァのいる木の根元へ行き、ジルヴァが木から降りるのを手伝う。
「……あの、フィル。お尋ねしたいことがあります」
背後からナターシャに低い声で声をかけられ、ドキリとした。やべえ、またFランクらしからぬことをやっちった。
「な、なに?」
ドキドキしながら振り返る。
「ケイン・ヴェロスというのはどんな魔法ですか?」
みるみる顔が赤くなるのが自分でもわかる。そこ聞くか。
「クロスさんはさすがにA級聖騎士、戦い慣れていらっしゃいます。剣が間に合わない時はパルシファーが先行して時間を稼ぐ。それはわかるんですが……それよりフィルが使ったあの魔法は風魔法ですよね?あの魔獣を一撃で倒してしまうなんて風魔法にしては威力がありすぎです。しかも魔法の発動が早すぎる。あのケインなんとかという呪文は……」
「え、あの魔獣って強いの?」
思わず問うと、ナターシャが驚愕の顔をする。
「ヘルハウンドはCランク魔獣ですよ!?このあたりでは人や家畜を襲うとてもやっかいな強い魔獣です!」
「ふうん」
「ふうんって、フィル!あなた本当にFランクなんですか?」
「えーと、実戦経験はわりとあるんだ。その、家出を繰り返しているうちに身についたっていうか」
「家出?」
やべえ、なんて説明すればいいんだ。アルミラがいたらちゃんとごまかしてくれるんだけど。
「いやだからその……」
「ちょっと!そこの二人!遊んでないでこっち来てよ!」
ジルヴァが呼んでる。
いやそもそも遊んでたのはお前だろ。土で城作って。って突っ込みたいところだけどナイスな助け舟だジルヴァ。
呼ばれるままにジルヴァとクロスのところに行く。
「ナターシャ、この真っ黒い魔獣、ギルドに討伐依頼来てるやつじゃない?」
ジルヴァがさも自分が退治したかのように魔獣に足を置いて聞く。
「あったと思います。ヘルハウンドは王都近辺の村で被害を出してますから。でも薬草採取の際、魔獣に襲われたのを防いだとして報告した方が、我々にとって都合がいいかも」
「どうして?」
「Cランクの魔獣が襲ってきても自衛できる、護衛向きの冒険者と印象付けられますから」
「なるほど。いいわね、それ。じゃあフィル、じゃんじゃん薬草探して!私は魔獣じゃんじゃん倒すから」
いやそれ役回り逆だろ。
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