3−2 合流

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 港から街へ、宿を目指して内陸に歩くにつれて賑やかさが増していく。  真夜中だというのに陽気な音楽が流れ、物売りと笑い声があちこちから聞こえる。  そんでもって紫や赤、ピンク色の火の魔法のランプが街のいたる所に浮いている。魔法つっても大したものじゃないけど、街中でこんなに普通に魔法が使われてるのはちょっと不思議だ。  道沿いには食べ物を売る店から、金銀の食器、アクセサリー、衣服、色んなお店が並んでいて、どこも活気に満ち溢れていた。  ひときわ人だかりの多い場所があって何かと思って人の隙間からのぞいてみたら、酒場の前で楽団が音楽を奏で、踊り子が踊っている。  黒く長い髪に、切れ長の黒い瞳を縁取る妖艶な化粧。コインやビーズがついた衣装はヘソが丸見え。セクシーな踊り子がウインクすると男どもから歓声が上がる。  その盛り上がる中、ふと酒場の一番いい席に座った男が気になった。酒瓶を片手に足を組み、悠々とした態度で女の人に囲まれ座っている。背は高いけど大柄というよりはスラッとした感じで剣士や兵士っぽくはない。露出が多い服で褐色の肌が目立つわりに、顔は頭から首にかけてゆるく巻いた布でよく見えない。気になるのはその魔力の強さ。    魔道士……いや、あの感じは……。男が顔を動かした拍子に、布の隙間から尖った耳が見えた。やっぱりエルフか。俺の視線に気づいた男と視線が合いそうになった瞬間。 「子供が見るにはまだ早い」  クロスに後ろから腕を引っ張られた。見てたのは踊り子のお姉さんじゃなくてエルフの男の方なのに。そういうクロスの背後にはなぜか女の人がいっぱいついて来ている。  聖騎士ってわかる格好で歩けばそうなるだろうよ。 「ちょっと目を離した隙にいなくなるなって」 「い、いなくなってないよ」  いつの間にかクロスたちとはぐれていたらしく、ゴーフルが少し離れた道の脇で大きく手を振っていた。  人ごみをかき分けるように歩いてようやくゴーフルと合流。 「なんか不思議だな、この街。人種もお店もごちゃ混ぜだ。それなのに独自の文化みたいなのもあるし」 「この国は五年前に大きな嵐があって、その時街も土地も壊滅的な状態になったそうだ。そこからたった五年でここまで交易都市として発展させたんだから大したもんだよ」  ん?その話し、なんかどこかで聞いた気がする。その嵐が来てから一年ごとに国の復興を祝うためにガラの星降り祭りをすることに決めたんだよな。そんでちょうどその時、友好国になった国から船の造り方教えてもらってチョコレートを仕入れて……。  お店を見回してみてもチョコレートを売るお店が多い。  山のようにチョコレートを積み上げ量り売りする店もあれば、チョコレートケーキに金粉やピスタチオをまぶして高級菓子として売ってる店もある。  —— 『至福のチョコレートケーキ』。夜の美しいガラにふさわしい  あれ……この話誰に聞いたんだっけ……? 「そこのお兄ちゃん、チョコレート!一口、食べて行きな。ガラのチョコレートは特別だぞ」  ぼーっとしてたらお店の人に声をかけられた。てか、俺の国の言葉で話しかけてくるのすげえ。他の人にも声をかけているけど、それぞれ言葉を使いわけてる。外見で判断してるのか。 「ああ、うん。ありがと」  味見で貰ったチョコレートは口の中に入れた瞬間、溶けてなくなった。甘すぎなくて美味い。  店構え自体は木と布でできた殺風景なものなんだけど、色々なチョコが並んでいてある意味夢の光景。 「どうだ?美味いだろう?」 「うん。美味い。あのさ、貴族の家のお菓子に使えるくらい高級なやつもある?」 「もちろんあるぞ。なあ兄ちゃん、ご主人様に今後はウチの店から仕入れるよう伝えてくれな」  店主は小声で俺に耳打ちする。俺をクロスたちの使用人だと思ってるみたい。不本意だけど、説明するの面倒だからまあいいや。  味見ついでにこのお店で買っちゃおう。そしたらチョコレート調達の依頼の方は終わりだ。 「なあ、おじさん。貴族の喜びそうなチョコレートいくつかくだ……あれ?」  銀貨を入れていた小袋を探そうと思ってポケットに手をいれたら、持ってきた覚えのないものが出てきた。 「なんだ、これ……?」  ポケットから出てきたのは細長いガラスの小瓶。紫色の薄い繊細なガラスで、花の(つぼみ)みたいな形をしていている。瓶口までが細く長く金の輪で装飾さててる。真ん中のふっくら膨らんだ部分には何か液体が入っているのが見えた。なんか、貴族が毒薬とか入れるのに使いそう。 「フィル、なんだそれは?」  小瓶を見つめる俺にゴーフルが聞いてくる。 「俺もよくわかんない。ポケットに入ってた。たぶんアローシュさんが俺を助けた時、俺の近くに落ちてたから俺のものと間違えたんじゃないかな。服乾かしてくれた時にポケットにしまったんだと思う」  てか銀貨を入れていた小袋がない。ポケットの重みはてっきり銀貨だと思ってた。 「それより銀貨を入れてた小袋がない」 「海で落としたんじゃないのか?」 「そうかも……」 「ははは、じゃあ俺が払い……ん?」  ゴーフルの顔が引きつる。 「……俺もないな。おかしいな、船を降りた時にはあったはずなんだが」 「奇遇だな、ゴーフル。俺もだ。たぶんこれはみんなそろってスリに合ったな」  クロスの笑顔が引きつっている。  三人が顔を見合わせる。  王国の聖騎士って隙だらけじゃないか。
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