2人が本棚に入れています
本棚に追加
里佳は戸惑っていた。
肯定も否定もできない。
弟を思う麻紀の真剣な面持ちを前にして、仕事で疲れているんだよ、と話をはぐらかすこともできない。
ただただ感じるのは居心地の悪さ。
麻紀は大学時代、モード系の服をおしゃれに着こなし、アバンギャルドな雰囲気を身にまとっていた。里佳とはアート好きという共通項で友達になった。
だが、ここでは、“カエルに生まれ変わった"話をしている。
何となくジトっとしていて、麻紀の話題にはふさわしくないと思った。
里佳は麻紀をアート系意識高い人間像として心の中で作り上げていたのだ。
「弟さん、カエルに変身したんだよ」
里佳は敢えて、“変身”という言葉を使った。
何だか湿っぽい空気を変えたかった。
「変身?」
「そう、好きなものに変身できて幸せだね」
「そうかもね。それはいいね」
麻紀は紅茶を一口すすった。
「お姉さんを見守ってるよって、伝えたかったんじゃないかな」
「そうだね。私、元気ないし」
「そうだよ、ほら、カエルになったよって」
「そっかー。弟も楽しくやってるならよかった」
麻紀は安心したようだった。
そして今、里佳を見つめるカエル。トノサマガエルだ。
殿様だから、こじつけになるけど、亭主関白だったおじいさん?
おじいさんにはカエルじゃ小さすぎるかな。私だったら気楽なネコがいいな…
里佳がカエルにそっと手を差し出すと、カエルはピョンと跳ねて草むらに入りどこかへ姿を消した。
最初のコメントを投稿しよう!