変身

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 里佳は戸惑っていた。  肯定も否定もできない。  弟を思う麻紀の真剣な面持ちを前にして、仕事で疲れているんだよ、と話をはぐらかすこともできない。  ただただ感じるのは居心地の悪さ。  麻紀は大学時代、モード系の服をおしゃれに着こなし、アバンギャルドな雰囲気を身にまとっていた。里佳とはアート好きという共通項で友達になった。  だが、ここでは、“カエルに生まれ変わった"話をしている。  何となくジトっとしていて、麻紀の話題にはふさわしくないと思った。  里佳は麻紀をアート系意識高い人間像として心の中で作り上げていたのだ。 「弟さん、カエルに変身したんだよ」  里佳は敢えて、“変身”という言葉を使った。  何だか湿っぽい空気を変えたかった。 「変身?」 「そう、好きなものに変身できて幸せだね」 「そうかもね。それはいいね」  麻紀は紅茶を一口すすった。 「お姉さんを見守ってるよって、伝えたかったんじゃないかな」 「そうだね。私、元気ないし」 「そうだよ、ほら、カエルになったよって」 「そっかー。弟も楽しくやってるならよかった」  麻紀は安心したようだった。  そして今、里佳を見つめるカエル。トノサマガエルだ。  殿様だから、こじつけになるけど、亭主関白だったおじいさん?    おじいさんにはカエルじゃ小さすぎるかな。私だったら気楽なネコがいいな…  里佳がカエルにそっと手を差し出すと、カエルはピョンと跳ねて草むらに入りどこかへ姿を消した。
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