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「麻紀ちゃん、最近、仕事どう?」
里佳は、麻紀が突然やって来たからには何か話があるのだろうと、口火を切った。
「う…ん。職場でいじめに遭ってる」
麻紀は少し思い詰めたような表情で、ポツリと語った。
「いじめ!? そんな、大の大人が」
私は驚愕した。
「そう、いじめというか嫌がらせ」
「どんな?」
「この前、イベントの仕事を任されたの。そうしたら女の先輩が、会場の周辺に食べるところ一杯あるから、昼食持って行かなくてもいいよって」
「へー、そんなことわざわざ教えてくれるなんて、親切じゃん」
「そう思うでしょ? それが当日、現地に行ったら、周辺に何の店もなかったの。結局お昼に何も食べられなかった」
麻紀は政府系の法人に勤めているが、いじめなんてあるのだろうか。
「え? それって何かの手違いじゃなくて?」
「違う、わざとそういうこと言ったの」
「そんなことってある?」
「私、留学してて英語が話せるし。私のことを気にいらないんだと思う」
確かに。麻紀はおそらく目立つ存在なんだと思う。才色兼備、スラッとしていて見栄えもする。
目立つ人にはそれなりの悩みがあるのだ。
「それはひどいね」
「うん、転職も考えちゃった」
「そっかあ…。うーん、せっかく希望のところに就職できたのに転職はもったいない気がする。石の上にも三年っていうし、三年は勤めた方がいいと思うけど…」
「やっぱり、まだ転職は早いよね」
「うーん…、でも、メンタルが病みそうなら、無理しないでね。また何かあったらいつでも言って」
「うん、ありがと」
それにしても、職場とはそんな恐ろしい場所なのか、と心配にもなった。
「私もいじめられるかも」
「里佳ちゃんは大丈夫だよ」麻紀は即答した。
「そうなんだ」
確かに。里佳は大人しい性格で、目を付けられることはないだろう。が、裏を返せば、地味でパッとしないということだ。それはそれでちょっと寂しかった。
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